この記事は下記のような方におすすめです。
- 「おまじない」の読みどころを分かりやすく解説してほしい!
- 「おまじない」のどこを読めばいいのか(読みどころ・POINT)
- 「おまじない」を読んだ人の生の感想。
おまじないという作品は「心を強くしてくれる物語」がたくさん集まっています。
登場人物たちは、自分自身に悩やんでいる子たちばかり。
今の社会は価値観が多様化していると言われながら、実は「こうすべき」みたいな正しい価値観・基準みたいなのがたくさんあります。
登場人物たちはみんな女性なんですが、彼女たちもみんなそういった「正しさ」や「こうすべき」というものに縛られて生きています。
でもそれを解放する言葉がもたらされる、それがこの作品の面白さです。
おまじないってどんな小説?
名作サラバ以降、西加奈子さんがはじめて描き下ろした短編集。(3作目の短編集)
短編集として発表するのは実に10年ぶり。収録は8作品。下記の通りです。
1 燃やす
2 いちご
3 孫係
4 あねご
5 オーロラ
6 マタニティ
7 ドブロブニク
8 ドラゴン・スープレックス
サラバで日本作家離れしたストーリーテラーとしての才能を感じたのですが、今回の作品でもその力量というか、味がギュッと凝縮されていました。(←生意気ですみません)
とくに型にはまらないキャラクターの人物造形はほんとうにピカイチ。
ちなみに、表紙のイラストは西さん自身がこの作品のために書き下ろしていますよ
■小説『おまじない』はこんなあらすじです
小学生の少女、ダンサー、ファッションモデル、劇団の広報係、ギャバ嬢、婚約前の女性などーー。
いろんな事情やバックグラウンドをもった女の子たちがそれぞれ人生を歩む。
いくつになっても抱える「生きづらさ」「悩み」に直面するし、心は壊れやすい。
なぜなら世界って実は残酷なものだし、傷つけてくるから。
とはいえ、人は悩みながらもなんとか生きてかなくちゃならないーー。
そんな“戦い”ながら生きている女の子たちをそっと救いだしてくれるのはおじいさんの「魔法のひとこと」。
■おまじないはこんな人におすすめ
- 悩みを抱えていて、心の支えとなる言葉を探している人
- 前向きに生きる力が欲しい人
- 自分の心の在り方に悩んでいる人
たかりょーが好きな作品、3作品の簡単なあらすじ
ここでは8遍あるうちの、特に僕が面白かった3作品だけあらすじをご紹介しますね。
孫係
12歳のすみれは、家では一人娘として愛されて、学校ではいつも「いい子」。
だけど、それはあくまで”ふり”にすぎない。
「すみれちゃんは本当にいい子ね」と言われるたび、心のどこかでは、みんなを馬鹿にしている。
仲良しのさくらちゃんに対してだって、うっとうしいと思うことが何度もある。
胸がキリキリと痛むけど、そんな自分を冷たくて卑怯だと感じつつ”ひねくれ者”と感じている。
そんなすみれの家におじいちゃまが一ヶ月滞在することになったーー。
服はきれいに整えられていて、上品かつ礼儀正しい。いわゆる素敵な紳士なおじいちゃま。
すみれは血はつながっているけれど、他人として扱ってしまうすみれ。
そんなあるとき、おじいちゃまがある提案をもちかけられる。
すみれさんは、孫係。 わたしは、釜係。この一ヶ月、それぞれ、係をきちんとつとめあげませんか。私の娘のために。 すみれさんのお父さんのために。
孫孫84
「優秀なすみれちゃん」という係をつとめあげること。
打ち解けられなかったおじいちゃまと秘密結社を結ぶ。
この世界では誰もが役割を与えられて、お互いの役割を、思いやりをもってこなして尊重する。
そんな立派な生き物こそ人間。
名言:
得をしようと思って係につくのはいけません。あくまで思いやりの範囲でやるんです。 その人が間違っていると思ったら、そしてそれを言うことがその人のためになるのだったら言わなければいけないし、相手を傷つける覚悟をもって対峙しなければいけない。でも、その人が間違っていないとき、ただ性格が合わないだけだとか、その人の役割的にそうせざるを得ない んだなぁと分かるときは、その人の望む自分でいる努力をするんです。」
マタニティー
「うっすらと表れた青い線を見た時はどうしていいのか分からなかった。」
彼女には徳永亮平という付き合って4ヶ月の彼氏がいる。
婚約前に予期せぬ妊娠が発覚し、困惑する私。
妊娠は世間的には喜ばしいものだけれど、結婚する前に子供をつくるなんて、周りから計画的と思われないだろうか。また未熟な私に果たして子供を育てられるのか・・・
「小さなころから、私はいつもそうだった。嬉しいことがあると、それと同等の悪いことを考える」
ネガティブ思考やマイナスな意見に左右されやすい私は、ネット検索で最初は「妊娠」で検索していたのが、「中絶・時期」まで行き着く始末・・・。
社会的な基準に絡めとられて“最低”と考える私は「母親」になれるのか。そんな主人公の複雑な胸中を、女性の独白ベースで描く作品。
ドブロブニク
所属劇団の裏方役として、人生の全てを劇団のために捧げた女性の物語。
梨木という有名演出家。
私が広報係として陰で支えたおかけで成功をおさめたと思っていたのだが、虚しさが残る。
フィンランドにいき見つけたものとは?おめでとうという祝福。
「おまじない」の意味は?
「ていうか意味はなんでもええのや、おまじないなんやから。自分の幸せになる解釈をしたらええのや」
ドラゴン・スープレックス
おまじないとは、一歩踏み出す勇気をくれる「魔法の言葉」です。
誰でも人生歩む中で、いいことばっか起こるのではなくて、なんともならない不安や悩みで眠れぬ夜をすごしたり、苦しみや弱さを抱えながら生きていかなくてはなりません。
それはまるで呪いのように始終私たちを苦しめてきます。
おまじないは、そんな災いの種なる“呪い”に対して、効果のほどは定かじゃないけれど、心の拠り所となる力を秘めた言葉です。
つまり、おまじないは、人生を生きる上での『言葉のお守り』的な役割があるのです。
「弱い人間でも生きていけるのが社会なんじゃないですか。」
マタニティ
このように、作品中にいろんな「おまじない」と巡り合うことができます。
救世主はおじさん?
ひとは誰でも弱さや悩み、苦しみを抱えながら生きている。
心奥深くで思い悩むことあれば、それは誰にも告げられることなく、呪いのように心も体も縛ることもあります。
おまじないにはそんな生きづらさを抱えながら生きている“女の子”たちがたくさん登場します。
そんな彼女たちにそっと手を差し伸べてくれるのは、ふとしたきっかけで出会う“おじさん”たち。
偉い人だったり、神様でもないのが面白い!
おじさんって空気読めないとか、世代観ギャップがあるとか、そういった“外部感”がいいですね。
なぜなら、救いってそういった意外なところからもたらされるからです。
少女たちと縁もゆかりもなくて、性別も違えば、歳も違う。
そういった思わぬところから、魔法がもたらされるのは、ある意味、すごく含蓄に富んでいるような気がします。
小説『おまじない』の感想読みどころ!
ここではおまじないの感想とともに、こんな点を意識して読むと、フカヨミできるポイントを教えます。
「正しいこと」なんてない!距離を置いてみるともたらされる幸福
おまじないを読んで一番最初に思ったのが、生きづらさは他人からもたらされるというよりは、自分自身が作り出しているんだなあ、ということ。
確かに最初は、社会から価値観を強制させれらたり(こうしなければいけない!という強制)、他人からいわれのない攻撃から発生したりするかもしれない。
だけれど、結局は“強制された価値観に縛られている”のも他でもない自分自身。
多分“正しい”から逸脱することができず、こうしなければいけない!という思い込みをどんどん強めていってしまうのだと思う。
それを僕は、正しさに首を絞められ、他人や社会、自分とうまく距離感がつかめてない人たちだと思っています。
西さんもあるインタビューでこのように行っています。
正しいとされている価値観も、しっくりこなくなったら自分と距離をおいていいんです。自分をしんどくさせているもの、心を縛っているものは何なのか? そこに目をこらして、その呪いを解いた先に、あなただけの言葉や感情に出会えますように。
She is [シーイズ] https://sheishere.jp/interview/201803-kanakonishi/
おまじないの登場人物たちは年齢も生きる背景も違いますが、生きづらさに各々違和感やら苦しみを感じています。
「正しいこと」を求めながら、いつも間にか「こうするべきだ」という縛られて、がんじがらめに自分を縛り付けてしまう。
この作品の面白いのは、その自分を縛り付けている呪縛を解くのが、彼女たちを救うのが「おじさん」ということ。
それはいわば異世界からのお告げなんだと思います。
これって絶妙で、生きづらさを解決するのは、つまりは自分自身の力ではなくって、他人から、それも全く意外な人から授けられる救いがあるのだということ。
昔の人ならこれを、奇跡と呼ぶかもしれないけれど。
自分に置き換えてみると、例えばどうしても頭から離れられない不安なことがあった場合、頭の中でぐるぐる考えてもダメ。
まずは何も考えずに街中をぶらぶら歩いたりてみること。そうすると思わぬ人やものに笑わされて、心が軽くなる的なやつ。あるいは全然苦しそうにしていない人のドジな行為に笑わされるようなもの。
だから、もし悩みに疲れいる人がいたら、その問題と距離をおいてみることが大切なんだとおもます。
女性の届かない「声」を拾い、救う
おまじないには、届かない声がたくさん描かれています。
社会の理不尽にふれたり、他人に裏切られたり、呪いのような言葉に縛られたり。
西さんの作品で届けられる言葉は、そっとこちら側に寄り添ってくれる言葉ばかり。
- 「あなたがいてくれてよかった」
- 「オーロラはいつも生まれ続けているんだ、戻ってくるんだ」
- 「おめでとう」
どんな強い人でも、時にはどうしようもなくなるときがあります。でも各々の話でつたえられる“おまじない”が、女の子たちに寄り添いながら、心のどこかで支えてくれるのです。
弱い人に優しく「大丈夫だよ」
登場人物たちは女性ですが、人から蔑まれたり、社会に揉まれたりで心に傷を負っている人に、そっと寄り添ってくれる作品だと思います。
社会って「こうすべきだ」という尺度みたいなのがあって、それを矯正されると息苦しくて、窒息しそうになります。
短編で出てくる子たちは、そういった社会から矯正される尺度だったり、思い込みだったりを無理やり押し付けられて苦しんでています。
そんな生きづらさを取り払い救ってくれる、力強い”魔法のコトバ”がたくさんでてくる作品です。