2022年映画レビュー企画!
記念すべき第一回はムーンライト。
この記事ではムーンライトをこれから見る人に向けて、あらすじ・登場人物・見るべきポイントを伝えます。
『ムーンライト』は性的マイノリティにスポットをあてた、ヒューマン・ドラマ。
本作をみることで「どんな状況にあろと誰もが自身の人生は自分で選択しているのである」と感じられるようになります。
映画『ムーンライト』のあらすじ
舞台は黒人が多く住む貧困地域、アメリカ・フロリダ州マイアミ。
ジャンキーのたまり場となり、アメリカ最悪の街と称されるリバティーシティーだ。
主人公はこの貧民街で暮らす少年シャロン。
彼は大人しい性格で学校では「リトル(チビ)」と呼ばれていじめられている。
家庭では麻薬常習者の母親ポーラから育児放棄されていた。(父親はすでに死去)
無口で感情をみせないシャロンは誰にも心を開かない。
だが偶然知り合った麻薬麻薬ディーラーフアンとその妻テレサと、彼を影で見守る友人ケヴィンにだけは違った。
少年期から青年期と成長するにしたがって、シャロンは、ケヴィンに対して友情以上の思いを抱くようになる。
だが彼の許されない感情は周囲から受け止められない。
そして誰にも思いを打ち明けられずにいたが、ケヴィンもシャロンに対して特別な感情を抱いている。
夜の海辺で初めて互いの感情を見せ合うことになる。
だがその翌日、二人の人生を大きくかかえるある事件が起こり――。
映画『ムーンライト』のテーマは?【鑑賞キーワードで解説】
ムーンライトがどんな映画かを簡単に言葉で表現すると下記の通りです。
マイアミを舞台に、ゲイ(男性同性愛者)といったセクシャルマイノリティの悩みを抱えた主人公が、自分の居場所とアイデンティティを模索する作品。
映画の構成としては
- 一部リトル(少年期)
- 二部シャロン(青年期)
- 三部ブラック(成人期)
と3つの時代構成になっており、少年期から思春期、そして大人へと成長する過程(それはほぼ苦悩につながる)を丁寧に描いてきます。
★ムーンライトをこれから鑑賞する方に向けて、観賞用キーワード
- 黒人少年の大人への成長家庭(アイデンティティ形成)
- いじめ、育児放棄
- 黒人性的マイノリティへのスポット
- 海の潮風と月明かりとキス(青春の香りと味)
映画『ムーンライト』の登場人物は?
シャロン(主人公)
体的に華奢で、心も気弱。
クラスメイトからは「リトル」と呼ばれていじめられている。
母親からは愛情を与えられずにいる大っ嫌い。
心が凍りつき表情は凍る。ほとんど無口で話しかけられた時にはうなずくか首を横にふるだけが多い。
ケヴィン(心優しき友人)
クラスで溶け込めないシャロンを陰で支える心優しき友人。
少年期から青年期と、いじめられていたシャロンのつねに味方でいる。
前半にサッカーをしているときにシャロンが逃げ出したときに、「弱虫じゃないところをみせろよ」「いじめられたままでいいのか?」と語りかける。
フアン(第二の父親。父性的象徴)
キューバ出身で薬のバイヤーをしている。
いつも笑顔で正義感があり、心優しい。
本作ではシャロンの父親的存在で、彼に教えを与える存在。(キリストで言う父と子の関係性)
なおシャロンの母親ポーラを攻めるが、母親に薬を売っているという痛い事実がある。
親代わりのようにシャロンに接するが、激したポーラから「あんたがあの子を育てられるの?」という言葉は重い。
テレサ(第二の母親)
フアンの恋人。
少年のシャロンにも優しく接する。まるで実際の母親のように接する。
もう一人の母親要素。
強く叱ることもある。
ポーラ(シャロンの実の母親)
麻薬中毒のシングルマザー。
麻薬に心を奪われてしまい、子育ては二の次になっている。(育児放棄)
最終的には薬物依存 回復施設に入れられる。
母性が皆無かと思われたが、作品の後半でシャロンに対して母親としての謝罪(自分があなたをこんなにした、最低なクズな私のようにならないで)し、「愛している」という。(和解的な意味合い)
映画『ムーンライト』鑑賞の感想・解説【見るべきPOINT】
社会的弱者、可能性のない孤独な少年。だが『自分の人生は自分で選択、どんな状況にあろうと』
シャロンはあきらかに社会的弱者でありマイノリティです。
黒人であり、家では母親から虐待されている。
学校では多人数からいじめられ、自分の心はなぜか同性の男に惚れている。
もろく繊細な少年である彼にとって、それらの出来事は、すべて心にトラウマ・傷を残すことになります。
(例えば麻薬が切れていて、お金をせびる母親はトラウマになるほど衝撃的。また友人から「ジャンキーの母親がいる」と罵倒され「おかま野郎が生意気な口を叩くんじゃない」といわれるのは心が崩壊しそうなくらい、ツライよ)
僕はシャロンの”人間としての可能性”を考えたときに、恐ろしいほどの閉塞感に苛まれました。(素敵な人生を約束されたキラキラした青春映画のヒロインとは対称的である)
でもこの映画。
こんな哀れなシャロンに対して、フアンこんな強いことをいうんです。
その時がきたら将来のことは自分で決めろ、他の誰にも決めさせるなよ
これを聞いたとき、僕は心に衝撃を受けました。
なぜなら、どれだけ過酷な状況にあろうと、私個人の人生は他の誰のせいでもなく、自ら選び取る必要があるのだ、と思ったからです。
反対にこうもいえます。
一つ一つの選択には、全て自分が選んだという責任が伴う、ということ。
僕はこの映画ではこの点、改めて学びました。
このセリフどっかで聞いたことあるなと思ったら、西加奈子さんのサラバにも同様なセリフがありました。
セーフティーネットはやはり必要であり、子は教えられることで成長?
シャロンは父親が不在であり、母親からも愛情が注がれていません。
ところが彼にはフアンの夫妻という第二の父親と母親がいます。
「なにかあれば好きな時に泊まりにきてもいい」と優しく接する夫妻は、孤独な少年にとって心の休まる唯一無二の場所です。
(映画では常に無表情・無口な彼が感情を顕にするようになって、徐々に心を開く細やかな感情の機微も、実に丁寧に描かれています)
そしてフアンは、シャロンにとっては非常に重要な存在であり、明らかに父親的な存在として描かれています。
■フアンの父親的象徴
- 海の中で彼の全身を支え水泳の仕方を教える
- 黒人はどこにでもいる、世界で初めて誕生した。
- 背中をドアに向けて座るなたて、後ろから襲われても気づかない
- 笑った感じも実に父性的な笑い(←邦画限定)
こういった教えを与える関係でも、父と子という関係性は意識できるんだ!
だからこそ、第二章でフアンの死は、シャロンの人格形成に大きな影響を及ぼすわけなのです!
第二章で、ゲイである事実を受け止め、喧嘩がきっかけとなり麻薬の売人の道に進んできます。これらもおそらく父親的な教えが欠如した結果なのかな?と思ったりしています。
ぼくはこのように一人の人間には父親的要素と母親的要素が必要なのだと感じました。
おセンチゼロ?大人の成長を静かに丁寧に描く
ムーンライトはよく「映像美」が際立つ作品といわれています。
とはいえ、それは単純にきれいな映像・外観的な美しさではない、と僕は思っています。
僕はムーンライトは例えば下記のようなところに映像美が宿っていると思っています。
- はっとしたような眼差しや表情の動揺
- リンチシーンのゆっくりとした動き
- すべての会話シーン
逆におセンチに走るシーンは全然なくて、このような瞬間的なシーンに、どこか言葉にできない美しさがあります。
静かに、でもたしかな強い手応えとともに、一人の少年の成長とその結果を描いています。
会話シーンについて
ムーンライトは、会話シーンが素敵。
とくに海辺のシーンとファミレスでのシーンはめちゃ素敵だと思っています。
★海辺のシーン
波音が聞こえる砂浜、月明かりの下で、ケビンとの会話は印象的。
麻薬の葉っぱをすすめるケビン。
母親が吸っているので嫌いなはずなのに吸ってみる。
笑顔が溢れるが、このシーンではじめてというくらい。
そしてゲイの心が目覚め印象的なキスシーン。
「潮風が気持ちいな・・・時々うちのほうにも同じような風が吹いてくる。風が吹くと、みんな立ち止まるんだ、風を感じたいからだ。一瞬静まり返る。」そして「聞こえるのは心臓の音だけ」
そして「気持ちよすぎ泣きたくなる」とケビン。「泣くのか?」と問いかけるシャロンに、ケビンは「気持ちだけな」というのに対して
「泣きすぎて時々自分が水滴になるかと思うくらいだ」と女性のような比喩を用いる。
★最終章のファミレス
細かくはここでは書きませんが、売人としてに再開したときの
弾む会話とともに、戸惑いの表情、子供を見せられた時の沈んだ表情、久しぶりであるが落ち着いた中にどこによそよそしさがあり、二人が徐々に打つ溶けていのは見ものです。
ムーンライトの意味は?
ムーンライトは月光の・月明かりのという意味。
僕はなぜこの題名が使われたのかというと、
マイノリティという弱者に対してささやかな明かりを当てるという意味があるのだと思います。
月明かりの下では黒人もブルーに輝くのであり、人種や性別も関係なく、ひとみな個性が輝くのです。
だから自分がゲイであることは認めたくないのだが、「ケビンが後ろから女を突いている夢をみる」があるのですが、これは無意識のレベルで彼を異性として意識していることがわかるのです。
映画『ムーンライト』作品情報
- 第89回のアカデミー賞の作品賞、助演男優賞、脚色賞 を受賞。
- 同年のノミネート作品【ラ・ラ・ランド】が有力視されるなかの受賞に驚いた人も多かっただろうね。
- 低予算