この記事は下記のような方におすすめです。
- 「宝島」の読みどころを分かりやすく解説してほしい!
- 「宝島」のどこを読めばいいのか(読みどころ・POINT)
- 「宝島」を読んだ人の生の感想。
僕にとって小説の魅力は、現実世界では体験できない世界を、まるでその場にいるような感覚で味わえれること。そして時代を超えて学べる普遍的なものを感じることに喜びを感じます。
だから僕は海外小説だったり、日本の古典文学だったりを好んで読みます。
「宝島」はその好例。この小説は、現代には存在しない「海賊」や「宝探し」を題材にしています。時代設定や冒険の舞台は確かに現代とは異なりますが、そこで描かれる人間の本質や普遍的なテーマは、時代を超えて私たちの心に響きます。
表面的には遠い世界の物語でありながら、その本質は私たちの現代と深くつながっています。例えば、「信頼」「裏切り」「生きるすべ」「冒険心」といった概念は、今の時代にも共通するテーマだと思います。
まず最初に僕と「宝島」との出会い
宝島は特に『買おう』という目的があったわけではなく、本屋をぶらぶら歩いている時に、何気なく本を手に取ったのがきっかけ。
いわゆる偶然の出会いというやつ。
スティーヴンソンはもともとジキルとハイド氏は読んでいて、僕のイメージでは、ディケンズのようにストーリー性に富んだ面白い物語を書く作家だというイメージはありました。
タイトルの「宝島」という非日常感というか、男なら少しはもっているロマン感覚に刺さりました。どこか物語欲に飢えていた僕は、中編ほどの長さという点も会って、購入したんだと思います。
でもそれが結局は新たに大好きな本になったのはシンプルに嬉しいです。
心沸き立つ冒険の旅=童心に戻れる
大人になって子供ごろを忘れてしまった・・・毎日慌ただしく暮らしているから。僕は小さい頃は秘密基地を作って、友達と遊んで、冒険ごっこみたいなのをよくしていました。
なので割と、冒険心をもっている少年だと思っています。
仲間(友達)とともに、近所の何もない柿の木並へ出かけていて、強敵を倒す、そんな空想を働かせて。宝島はそんな童心が蘇る、忘れていた冒険心を取り戻せる、そんな小説。
片足の老海賊、秘密の地図、宝島の蛮人、仕事人の鑑のような船長、海賊たちとの戦い、骸骨島、八銀貨と叫ぶオウム・・・とロマンがつまっています。
こういった心を浮き立たせる物語が宝島です。
宝島とはどんな小説?
“宝島 “は、イギリスの作家、ロバート・ルイス・スティーブンソンの代表作です。
1881年10月から翌年1月まで『ヤング・フォークス』誌に発表された作品。発表当時はそこまで注目されていなかったのですが、少年雑誌で単行本になると一気に人気がでた作品です。
作者はロバート・ルイス・スティーヴンソン
作者はイギリスの文豪のロバート・ルイス・スティーヴンソンです。病弱だったため、フランスなど旅行を好み、紀行文や小説を執筆していました。大学で工学を学んだ後、転じて弁護士の資格を取得しましたが、病気のために実務に就くことはできませんでした。
後にアメリカ人女性と結婚し、作品を出版して名声を得ています。幼少期から善悪の二重人格に興味を持ち、『ジキル博士とハイド氏』でそのテーマを扱い、広く知られることになります。また、子ども向けの童話や詩も手がけ、『歌のお庭』や『宝島』は特に人気がある。
彼の作品は国を超えて翻訳されており愛されており、今も世界中で読みつがれています。
彼はまた、創作活動とともに、自分自身の健康回復にも努め、晩年はサモアに住んでいたが、5年後に亡くなった。
宝島は、妻の連れ子を楽しめるために・・・
宝島の裏話。実をいえば物語はスティーヴンソンのアメリカ人妻の”連れ子”を楽しませるために作られたんです。
妻とは十歳年上の妻ファニー・オズボーン。そして連れ子とはロイド少年。
スティーヴンソンは子供を楽しまれせるために宝島と名付けた地図を描いて、それをもとに物語を書いた。それが後になって『宝島』として知られるようになりました。
宝島のテーマは?
「宝島」は、騙し騙されのアクションスリル冒険小説です。主人公ジム(←彼が読者の視点)が宝を探すために仲間と冒険に乗り出し、途中で裏切った海賊たちとの戦いを描くスリリングな作品。
だからテーマは「冒険」。
でも僕はもうひとつの読み方として、ジムというヒロイックを象徴する少年と、トリックスター(=二面性をもつ物語を推進する者)であるシルバーとの関係性を描いた物語としても読めると思っています。
シルバーは残忍な海賊でありながら、ジムに対して父親的な愛情を示します。ジムはそんな海賊としてのシルバーのかっこよさに憧れ惹かれますが、やがて裏切り行為に対して失望します。
ジムがシルバーに対して感じる、こうした矛盾した感情は典型的な英雄の旅の物語です。なのでこれから宝島を読むという人は、ジムとシルバーの関係性を意識しながら読んでもらいたいです。
こんな人におすすめ
- 日常や仕事に追われて変化のない毎日を過ごしている人
- 古典文学に触れてみたいが、難解な作品は避けたい読書初心者
- 歴史や海洋冒険に興味がある人
そんな人にはぜひ読んでほしい作品です。
宝島のあらすじ簡単要約
物語は、主人公で語り手のジム・ホーキンズの、母が経営する海辺の小さな宿屋「ベンボー亭」に、海賊の大男ビリー・ボーンズがやってくるとこからはじまる。
宿賃も踏み倒されっぱなしの災難に遭う。彼は大きな箱を抱えている。
ビリー・ボーンズは「片足の男」にひどく脅えて、ホーキンズに「片足の男に気をつけろ。4ペンス銀貨やるから、片足の男が現れたら、すぐ俺に知らせろ」と言いつける。
やがてビリー・ボーンズの周囲に、彼を追跡してきたらしい怪しげな人物が出没するようになる。ボーンズは次第にラム酒浸りになり、ある晩、一枚の紙切れを見せられたところショックにより死んでしまった。
ジムと母親はビリーの船員衣類箱の中から悪名高いフリント船長が隠した宝の在りかが書かれた地図を発見する。そしてその箱に一緒に入っていた帳面には、ビリー・ボーンズがかつて伝説の海賊フリント船長の乗組員であることをしる。
ジム・ホーキンズは父の主治医であったリブシー先生と大地主のトレローニとの協力を得て宝島へ向かうことになる。
トレローニは私財をはたき港町ブリストルで船を仕立てて屈強な船員たちを雇う。そして航海には居酒屋を開いていたジョン・シルバーという片足の男の助けを借りて船員を集める。やがて、ホーキンズ少年をはじめ一行が乗り込んだ船はヒスパニオラ号で宝島へ向かう。
ところが宝島に向かう船に同乗したジョン・シルバーが、フリント海賊団の元一味で、悪名高い海賊だということが判明。ビリー・ボーンズが恐れていた人物こそ、ジョン・シルバーだった!彼の目的は宝物を得た後に、一緒に乗り込んだ海賊たちに反乱を起こさせて、スモレット船長やトレローニーを殺そうとすることだ。
ところが幸運なことにホーキンズがりんご樽の中で、シルバーの反乱の計画を事前に耳にし、船長のスモレットに反乱の計画を通報した。そのおかげでトレローニやリブシーは災難に見舞われることなく幸いにも脱出に成功。
その後、島でジョン・シルバー率いる海賊一味との戦いが勃発。海賊たちの間にも内輪もめがあり、また昔この島に置きざりにされた元海賊のベン・ガンの助けを借りて、スモレット船長率いる一行は海賊たちを撃退。
その後ジョン・シルバーは宝を見つけるが・・・最後にはジムたち一行に降伏して、骸骨島を離れる。イギリスでの晒し首を恐れていたシルバーはカリブのある島で銀貨数袋を盗んで発して逃げる。
イギリスに帰り着いたジム一行は、財産をわけ各々の人生へ。
宝島の登場人物紹介
不朽の名作宝島。その所以は物語に登場するキャラクターたちが各々持つ個性の魅力。ひとりひとりがしっかり描き分けられていて僕たちに強烈な印象を残すものばかり。
ここで「宝島」に登場する主要なキャラクターを紹介します!
ジム・ホーキンス
ジム・ホーキンスは「宝島」の主人公。少年航海士。
両親はイングランドの都市ブリストル近郊の入江にあるベンボー提督亭という宿屋を経営し、それを手伝うごくごく平凡な少年。(父親は病死している)
海賊の宝を探すことになった。
子供所以の無鉄砲さもあるが、勇気や機知を発揮するる行動を多々取る。
物語内では彼の無鉄砲な行動が、結果的に仲間を救うことに。作品内では無邪気さと純粋さの象徴。
リブジー先生
船長。町医者でジミー含めて多くの人から信頼と尊敬を得ている。冒険の旅に同行する。性格は実用的かつ冷静沈着な性格。
トリローニ
町の郷士でイスパニオーラ号の持ち主。6フィートをこえる大男。数々の長旅をしてきた。
気前がよく明るい性格だが、口が軽すぎる欠点。
宝の地図について周りに吹聴してしまう。また人を見る目がなく、後に裏切ることになるジョン・シルヴァーは心から信頼して、好人物であるスマレット船長のことは信頼していない。
好き嫌いがはっきりしており、物事にズバズバと
ジョン・シルヴァー
一本足の海のコック。左脚が腿の付け根から切断されている。
「のっぽのジョン」年齢は50歳。
過去にフリント船長のところで操舵手を務める。ブリストル街で食堂「遠眼鏡屋」を営んでいる。
経験豊かな優れた船乗りであり、カリスマ性をもっていて、多くの人を惹きつける魅力がある。
トレローニーがスカウトした男であるが、実は海賊グループの秘密首謀者で反乱を目論んでいた。
人を褒めるのが上手く、人に取り入るのが得意。
松葉杖を自由自在に操って動き回る。
欺瞞に満ち、不誠実で、強欲である。仲間にならなかった船乗りを殺したことも。だがジムに対しては常に純粋な愛情を持っている。
ニックネームには、「肉焼き」 や「海のコック」 、「のっぽのジョン」 などがある。イギリスで晒し首になることを非常に恐れている。
名言
「冒険紳士ってのがどんなもんかというとな。荒っぽい暮らしをして、縛り首になる危険を冒すが、盛大に飲み食いをして、ひと航海終えりゃあ、ポケットには数百ファ ジングじゃなくて、なんと数百ポンドもはいってる。だからたいていのやつらは、ラムとだだら遊びで散財しちまって、シャツ枚でまたぞろ海に出る。だけど、おれ はそうじゃねえ。おれはその金をすっかりためておく。 こっちに少しあっちに少しと、どこにも預けすぎねえようにするんだ。 怪しまれるといけねえからな。おれはもう五十だ、なあ。この航海から帰ったら、本物の紳士になる。 まだ早い、とおまえは 言うだろうが。 とんでもねえ、おれはこれまでずっと、安楽な暮らしをしてきたんだ。
欲しいものを諦めたことはねえし、いつも軟らかい寝床で眠って、うまいものを食っ てきたんだよ。海に出てるとき以外はそのおれだって最初はどんなだったかという平水夫さ、おまえとおんなじで!」
スモレット船長
ヒスパニオラ号の船長。優秀で厳格な性格であり、仕事人としての態度は鏡のよう。
非常に勇敢で、危険な状況でもリーダーシップを発揮し冷静沈着に行動し、乗組員たちを率いて船を守る。反逆者に挑み姿勢には心ひかれる。ときにはジョークも飛ばす。
名言
「言いふらされている、ということです。お ふたりとも、自分がどんなことをしようとしているか、おわかりでないようだ。しか し、私の言葉で言えばそれは生きるか死ぬかの、きわどい仕事です」
96
イズレイル・ハンズ
ジョンシルバーの腹心で副船長。老練の船員で操舵主。
みんなからはバーベキューと呼ばれている。
ジムとヒスパニア号に2人きりで
「三十年もの、おれはあっちこっちの海をめぐりあるいて、いろんなことを見てき た。好いことも悪いことも、もっと好いことももっと悪いことも、晴天も荒天も、食 料が尽きるのも、刃物ざたが起こるのも、何もかも。だから言うんだがな、好いこと が好い行ないから出てたためしはねえ。先に斬りつけるやつがおれは好きだ。 死人は 噛みつかねえ。それがおれの考えだー 心から
ベン・ガン
大海賊フリントの子分。「哀れなベン・ガン」。
ジムたちとは仲間の関係でそれが後に彼らを救うことにもつながる。
刑罰として3年間、火薬と銃弾ととも無人島の骸骨島に置き去りにされていた。
山羊と、スグリの仲間と、牡蠣を食って生きのびる。
レッドルース
叛徒にうたれた可愛そうな老人。
キャプテン・フリント
ジョン・シルバーが飼っているオウムの名前。「八銀貨!」と叫ぶ。
ビリー・ボーンズ
ジミーのホテルに滞在している老船乗り(老海賊)。フリント海賊の元一味。
片頬に生白い刀傷があり、荒っぽく、だが腹が座っている。
上背のあるがっしりとしたたくましい赤銅色の男。傷だらけのごつい手をしている。ラム酒の飲みすぎ。脳卒中で死去。
片足の男にひどく怯えている。彼が持っていた地図が宝島への謎を明らかにする。
名言
「じっとさしておけねえんだ、どうしたって。今日はまだ一滴も飲んでねえんだから。あんな医者は藪だ、 嘘じゃねえ。ラムをひと口やらねえと、おれは発作を起こすんだ。もういくらか始ま ってる。フリントのやつがそこの隅に、おまえの後ろにいるのが見える。刷り物みた いにはっきりと。おれは荒っぽい暮らしをしてきた男だからな、発作を起こしたら大 騒ぎをするぜ。おまえの医者だって、一杯なら害にはならねえと、そう言ったじゃね えか。一杯くれたら、ギニー金貨を一枚やるからよ、なあ、ジム」
P33
宝島の読みどころ解説【感想あり!】
それではここからは宝島の読みどころを解説していきます。
まずもって、最高の物語展開です!!
物語の展開がマジで秀逸。
はじまりは突然顔に大きな傷跡のある、過去になにかあったらしい男がやってくるーー。そいつはボーンズ船長でかつては海賊の一員だった。そして彼は海賊たちに追われている。その理由は「宝島の地図」をもっているから。そして突然物語のキーポイントと思っていたボーンズ船長が死ぬ。残されたのは「宝島の地図」。それから宝を仲間を率いて骸骨島へ向かう。がしかし、その仲間の中にはボーンズ船長が恐れていた片足のシルバーが乗っていた。そして彼は裏切りを計画していた・・・・
とあらすじをさらっと語っただけでも、二転三転するストーリー。
危険に満ちた冒険小説ならではのハラハラドキドキスリル満点。
それ以外にも財宝をめぐり血なまぐさい戦闘と共に、海賊たちの裏切りや人殺し、死体に囲まれる宝島など恐怖とサスペンス要素もある。
本当に色々な要素が含まれています。
ジム・ホーキンズ=ヒーロイックな
ジム・ホーキンズは軌跡を呼ぶ男で、THEヒーローと言う感じの人物。
ストーリーの中心には必ず彼がいて、良くも悪くも彼の行動が物語自体を前へ前に推進させていく。
ヒーロー的というのは、ジムはあちこちに顔を出して物語をかき回すんだけれど、めちゃくちゃ強運でこれでもかこれでもかと危機をくぐり抜けていく。(例えば錨鎖をきるときに風が吹くシーン(p236)なんかは神に守られているとしか思えないくらい。)でもそれが結果的にいつも仲間を救うことになる点です。
海賊たちの裏切りをリンゴ樽のなかで聞くのも彼だし、一人でアジトを抜け出してヒスパニオーラ号を取り戻すのも彼。最後には海賊をピストルで撃って倒すことも・・・
彼のあまりにも“無知なヒロイック的な活躍”を見る限り、神様は彼を冒険させようとしていたのでは?と思えます。つまりビリー・ボーンズが偶然やってきて冒険が始まったのだけれど、それは“偶然性”ではなくて、“冒険する運命”だったかもとちょっと運命論的な面も見えてきます。
さらにジムの魅力は少年なのだけれど、どこか大人びた印象がある点。
彼は何も考えず行動してみるように見えて、子供とは思えないくらい冷静に考えたりもしている。だから先生や船長、シルバーも含めて、対等の“大人”として相手されているんです。
ジョン・シルヴァーというトリックスター
『宝島』で最も生彩を放つ登場人物が一本脚のジョン・シルヴァーです。
彼はさまざまな”人間性”をもった掴めない男。
海賊であり人殺し。嘘つきであり、悪魔的な要素も持ち合わせていて、純粋な船乗りを堕落させるシーンもあります。
しかし一方で人の心を掌握する魅力もあります。気さくで頼もしく紳士的な義侠をもち、勇気ある過去の海賊としての立ちふるまっています。つまり「カリスマ性」を持つ人物なのです。
かといえばエゴイズムの塊であり、計算高くて簡単に仲間を裏切って、自分だけ生き残ろうとする冷徹さ。だからこそ危機的な状況に陥れば、保身に走って従順なしもべのような振る舞いもする。
ちなみにシルバーの一番恐ろしいと思ったシーンがあります。それは下記。
一度裏切ったジムの仲間たちの船に戻り、自分を下僕的な立ち位置に戻して平然と語るこのシーン。
「すっかり酔っぱらってるんですよ」と背後からシルヴァーの声が割りこんできた。 シルヴァーはいわば完全な自由を許されており、毎日邪険にされているにもかかわ らず、自分ではふたたびすっかり、特別な親しい従者になったつもりでいるようだった。それどころか、驚くほどよくその冷遇に耐えて、疲れを知らぬ愛想のよさでひたすらみなに取り入ろうとしていた。それでもみなは彼を犬ころ同然にあしらっていたように思う。
このようにシルバーという人物は状況に応じて千変万化するのです。よくこれを複数の人格をもった多重人格性と解釈されることが多いようです。
でも僕はシルバーを多重人格性というよりも、「トリックスター」的なキャラだと思っています。
トリックスターとは、悪戯やいたずらをする者や、人をだますことを得意とする役割を持つ人物。トリックスターは、しばしば神話や伝説、文学などに登場するキャラクターで、その役割はさまざま。
wikiにはトリックスターについて『善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、異なる二面性を持つのが特徴』と書かれていますが、シルバーが多面的であるのは「善と悪」の二元論のみで語られるのではなく、あらゆる面で二面性を持っているが故に多面的に感じられるのだと思います。
つまり、「海賊の親分であるとともに従者」、「裏切りの精神を持ちつつ仲間を作る」、「気前がいいやつかと思えばブチギレる」「勇気のある振る舞いとともに愚者」というようにある一面の反対をたくさん持っているのです。
そして彼がトリックスターだと思うのは、何より「物語を展開する者」「人間の世界と超自然の世界を繋ぐ役割を果たす」であるという点。
彼がもし船で裏切らなければ、海賊たちを率いて戦わなければ、また最終的に宝を見つけられなければ、「宝島」という作品は全く面白くなかったと思います。
さらに言えば最後に「走って逃げる」みたいな剽軽的な軽快さも、トリックスター的な印象を持たせます。
ジムとシルバーの関係とは?
ジムとシルバーの関係性を、スティーヴンソンはちょっと特別な形で描いていると思います。
ジムはいわば純粋性の塊です。これまで島にある小さなベンボー亭でほそぼそと生活していた。
彼にとってシルバーのような「理想的な海の男」は、憧憬の対象となります。
そして海の男であるシルバーは少年であるジムに対して、対等の立場で話してくれます。尊敬も込めて。
「こっちへ来いよ、ホーキンズ、こっちへ来てジョンとおしゃべるをしてくれ。おまえぐらい歓迎されるやつはいないぞ」
早々と父親をなくしたジムにとっては、シルバーに対して父親的な像を見ていたかもしれません。
だからこそ、シルバーが海賊であり、裏切りを働いたときの”反動”は強くて、人一倍の怒りや憎しみを持っていました。
そして二人の関係性を考えるときに、「ヒーローとトリックスター」という二つが見えてきます。
つまり
ジムは最終的にシルバーの一味に囚われるのですが、
彼らの友情は陳腐なものではなく、深い魂のつながりであり、ジムの複雑な感情に共感することができる
海賊たちの振る舞い=ワンピースとは全然違う、極悪人
日本人なら「海賊」というと大半の人がワンピースを思い浮かべますよね。
仲間へのあつい信頼と絆、敵に対しても尊敬を払う。
でも宝島を読めば分かるのですが、実際の海賊たちって全員タチが悪い。思いやりの心もなければ、心の底から誰かを信頼しているわけでもない。
要は極悪人。一本足のシルヴァーを筆頭に、頰傷のビリー、左手の指が二本ない黒犬、盲目のピュー・・・
彼らはほとんどが飲んだくれだし、宝のためなら仲間なんて簡単に裏切る。
多分当時のイギリスで動いていた海賊はみんなこうだったんだろうなと思った部分はあります。
でも僕はなんか彼らに妙に惹かれるんですよね。なぜなのか考えたのですが、それは何にも縛られていないからだと思います。
ただ財宝のために、己の欲望のままに生きていく。絶対に僕はそんな人生を歩めないと思いますが、小説というフィクションならば、それを少しでも想像できるという点で惹かれているというのがあります。
宝島の小説手法は?
宝島で使われている小説手法は、「回想形式」。
ジムという主人公が「これから冒険に向かう」のではなくて、「すでに冒険は終わってそれを振り返っている」形で物語られています。
だから読者の私たちとしてはジムは無事に骸骨島から帰還している、そして何かしらの成果をあげているのでは?と想像しながら読むことができます。
この回想形式だから、ときに小説の中では「この行動がのちにどういう結果につながったか」をジムの言葉で伝えられるシーンもあります。
回想形式は割と小説ではよく撮れれる方法です。