ディケンズ『大いなる遺産』あらすじまとめ【感想文用の深掘り】

この記事は下記のような方におすすめです。

  • 「大いなる遺産」の読みどころを分かりやすく解説してほしい!
  • 感想文用に「大いなる遺産」のどこを読めばいいのか教えてほしい!
  • 「大いなる遺産」を読んだ人の生の感想。

について、説明します。

大いなる遺産は、孤児である少年ピップの成長と変貌を描いた作品です。

目次

大いなる遺産ってどんな小説?【概要だよ】

『大いなる遺産』は、チャールズ・ディケンズが彼の父、ジョン・ディケンズの死後9年目に着手した作品です。

小説は1860年から1861年にかけて、ディケンズ自身が編集を務める週刊誌『オール・ザ・イヤー・ラウンド』に連載されました。

この作品はディケンズの著作の中でも骨太な構成が特徴で、評論家たちによって「完成度の高い作品」と評されています。『オリバーツイスト』や『デイビッド・コッパーフィールド』のような明るく楽観的な調子の作品とは異なり、『大いなる遺産』はそのプロットの緊密さや心理描写の細かさにおいて、ディケンズの作品の中でも最高傑作とも言われています。

Expectationsについて

『大いなる遺産』(原題「Great Expectations」)のタイトルには「遺産(相続の見込み)」と「期待(途方もない期待)」という二つの意味が込められています。この物語は、主に相続の見込みをめぐるプロットを軸に展開し、主人公ピップを含む登場人物たちが抱く途方もない期待が崩れ去る過程を描いています。

例えばピップは、匿名の人物から遺産を相続し、ジェントルマンになるためにロンドンへ行きます。しかしそこでは放蕩を尽くして、さらに遺産を残したのは流刑地を密かに脱け出した流刑囚マグウィッチであった。さらに別の男と結婚してしまうエステラ。

大いなる遺産のあらすじを紹介

クリスマスイブの寒い夕暮れに、ピップがテムズ川沿いの教会の墓地で、両親と早死にした兄弟たちの墓を前にひとり泣い ていたとき、そこに鉄の足かせをはめた恐ろしい囚人が現れる。両親と兄弟たちの墓の前で泣いていたピップが牢獄船から脱走した囚人マグウィッチと出会うシーンから始まります。マグウィッチはピップを脅迫し、食べ物と足枷を切るヤスリを要求します。恐怖にかられたピップは家からこれらを盗んでマグウィッチに渡し、彼はその後別の囚人と格闘しているところを捕まります。

ピップは鍛冶屋のジョーに育てられており、ジョーの善良さが彼を支えています。しかし、ピップは強い孤独感を抱えており、霧に包まれたような不確かな未来を歩んでいます。その後、ピップは朽ち果てた大金持ちミス・ハヴィシャムの屋敷(サティスハウス)に招かれ、彼女の養女エステラに出会います。エステラに心惹かれたピップは、彼女にふさわしい紳士(ジェントルマン)になることを願うようになります。

物語は転機を迎え、ピップは匿名の恩人から突然莫大な遺産を受け継ぎ、ジェントルマンとしての教育を受けるためにロンドンへ旅立ちます。ピップは放蕩生活を送りながら、遺産の送り手がミス・ハヴィシャムであると信じ、エステラの結婚相手として自分を鍛えるためのものだと考えます。

しかし、彼の人生は再び意外な方向へと進みます。恩人が実は脱獄囚マグウィッチであることが明らかになり、ピップは大きな幻滅を味わいます。その頃、エステラは他の男性と結婚し、マグウィッチも死にます。遺産を受け取らない決断をしたピップは海外で働きます。

11年後、帰国したピップはエステラと再会します。物語は、彼らが結ばれることを示唆して終わります。この物語は、霧の中を歩くピップのように、不確かで予測不可能な人生の道のりを象徴的に表現しています。ピップの孤独感、成長、そして愛と失望の経験が、彼の人生に大きな影響を与えています。

大いなる遺産のテーマは?【作者がどんなことを伝えたいのか】

  • 成功と失敗
  • 当時の監獄
  • 遺産
  • 期待(途方もない期待)
  • ジェントルマン
  • 幻滅

大いなる遺産の登場人物紹介

大いなる遺産にも、その他のディケンズ作品と同じく、実に個性的で魅力的なキャラクターたちが登場します。
ここではその主要な登場人物を紹介しますね。

ピップ

物語の主人公で、孤児。幼い頃は貧しいが、後に謎の恩人からの遺産によって紳士としての生活を送ることになる。

ピップ(本名はフィリップ・ピリップ)の年齢は 34 歳。

ジョー・ガージェリー

ピップの義兄であり、鍛冶屋。優しく、誠実な人物で、ピップの幼少期の良き保護者。生まれつき職人がたきな性格で、文字も書けず、態度は粗野なところがある。しかし根はとても心優しく、温かい人間。特にピップへの愛情は人一倍。

エステラ

美しく、知的だが冷淡な女性。ミス・ヘイヴィシャムに育てられ、ピップは彼女に深い愛情を抱く。

パンブルチュック

ジョーの叔父。ジョーの妻と共謀し、幼いピップをいじめる。雑穀商として裕福な生活を送り、上流階級に属することを気取る。その実態は大言壮語と感受性の欠如による偽善者。

ピップが莫大な遺産を受け継ぐことになると、手のひらを返したようにピップに対して卑屈な態度をとる。この急な態度の変化は、彼の本性を象徴しており、自身の利益のために人間関係を操ろうとする彼の姿勢を浮き彫りにします。

ミス・ハヴィシャム

若い時には美しかったが、裕福な家柄を兼ね備えた女性。しかし、結婚式の日に婚約者に逃げられた過去があり、それ以来男性に対して深い復讐心を抱く。自身の結婚式が破綻した瞬間から時を止めて暮らす。彼女は両親から相続した豊かな財産をもち、幻想的なサティスハウスという屋敷で、美しい養女エステラと共に暮らす。

ポケット氏

ミス・ハヴィシャムの親戚。ピップがロンドンで教育を受ける際に、彼を庇護する。髪の毛を吊り上げて、身体を持ち上げようとするのが癖。面倒から切り抜けようとする。

ポケットの奥さん

貴族年間を読む、足乗せ台で家族を躓かせ、お爺さんの話をする。

ハーバート・ポケット

ピップの親友で、後にビジネスパートナーになる。 彼はピップがロンドンで出会う最初の友人の一人。

ピップが遺産相続を受け、大胆な遊びをする中、付き合って大量の借金をする。楽観的で、周りの形成を睨む癖がある。

人柄を表す発言
「ヘンデル、ほくの見つけた真理はね、突破口はあっちからはやっちゃ来ないが、こっちから捜しに行かなきゃならないってことさ」

アベル・マグウィッチ

ピップが子供の頃に出会う逃亡中の囚人。遠く離れた土地(ニューサウスウェールズ)で牧羊業・牧豚業など諸々の商売をして人財産を気づく。少年のピップに助けられた恩から「彼を一人前のジェントルマンにしよう」と決意し、財産を気づき上げ、ピップに渡す。

ベンティー・ドラムル

ピップの幼馴染ではあるが、乱暴な男であり、陰鬱な人間。ピップに対して嫉妬心を抱き、物語ではエステラをかけてピップと決闘をする。

ジャガーズ氏

ピップの遺産の管理者。エイベル・マグウィッチの代理人。冷静かつ洞察力がある弁護士であり、ロンドン社会の暗部に精通している。犯罪人、陪審員、裁判長などあらゆる人たちに恐れを抱かせて、彼の思惑通りに進める力がある。それゆえ尊敬もされている。ウェミックいわく底知れない人物であり、地球の反対側にあるオーストラリアみたい

ウェミック氏

ジャガーズ氏の事務員。職場と私生活(プライベート)を厳格に分ける二面性を持っている。職場の仕事中は厳格な事務員として職務を全うする(私情は一切挟まない)。一方プライベートの時は厳格な性格は影を潜めて家族思いの一面を持ち、人思いの心優しく性格。ピップの友人であり、助言者でもある。彼の家は城のように作られており、橋や堀が特徴的。

モリー

ジャガーズの家政婦。実は彼女はエステラの実の母親である。物語では、ジャガーズの家政婦になるまでの過去が語られるが、彼女は殺人という罪を犯し、その事実を伏せたままミス・ハヴィシャムに実の娘エステラを養女として預ける。

大いなる遺産の深読みポイント(たかりょー的見解)

なぜマグウィッチはピップに遺産を残したのか?

小説をそのまま読むと、かつて脱走を手助けしてくれた恩人であるピップへの「感謝」と思うはず。

でも深読みをするなら、脱獄囚マグウィッチの遺産相続は、「自分の復讐」を叶えるためだと解釈できます。

この復讐とは、罪人として自分を虫けらのように扱われ、軽蔑され続けたイギリス社会への復讐です。マグウィッチは、イギリス社会に対して深い恨みを抱いており、その社会を支配するジェントルマンへとピップを仕立て上げることで、彼を「復讐の道具」として利用しようとしています。

そうさなあ、ピップ。おれがおまえをジェントルマンに仕立て上げたんだぜ。仕立て 「上げたのは、このおれだ。あの頃、一ギニーでも稼いだら、きっとそのギニーはおまえに やるって、誓ったんだ。その後からでも、投機で金持ちになったら、きっとおまえも金持 ちにしてやるって、誓ったんだ。おまえが平穏な暮らしができるようにと、おれは波乱の 暮らしもしたさ。おまえが働かないで暮らせる身分になれるようにと、死に物狂いで働いたさ。

大いなる遺産:第20章

おまえに恩を着せようとして、 こんなこと言っているのかってかい。まさか、滅相もない。おれがこんなこと言っている のは、おまえに命拾いさせてもらった、追いつめられたくそ野良犬だって、逆境にあってもこんなに胸を張って生きて、ジェントルマンを仕立て上げられたんだってところを知ってもらいたかったんだよ

世間を見かえしてやりたい、復讐してやりたいという復讐心。それはオーストラリアという地で無駄遣いひとつせず、こつこつと働きひと財産築き、命をかけてイギリスに戻ってくる。そうした彼の執念はすごいですよね。

ピップはなぜ恩人マグウィッチへの「嫌悪感」を抱いたのか?

『大いなる遺産』において、特に印象深いシーンとしては、ピップが自分に遺産を残したのが犯罪者で流刑囚のマグウィッチであることを知る瞬間です。

「わしがお前を紳士にしたんだ」と明かされた時、ピップは感謝ではなく嫌悪感を覚えます。

それはなぜなのでしょうか。

その理由は、彼がジェントルマンになるためロンドンへ行ったのが、彼が予想していた資産家のミス・ハヴィシャムではなく、身分の卑しいマグウィッチの資本によるものだったからです。

ピップはジェントルマンになるために、実の父のように愛しつつも、文字も読めないほど教養もなく低い身分の鍛冶屋であるジョーを切り捨てます。

なぜならピップはミス・ハヴィシャムの屋敷にいた恋心を抱いたエステラに出会い、卑しい労働者階級と軽蔑されたからです。彼にとってこれまでは「鍛冶屋」としての世界しか知らなかったのですが、エステラの言葉により、野暮ったく

反対にエステラがいる教養豊かで上品な世界に憧れを抱き、そんな生活をしながら愛するエステラと暮らしたい。

つまりミス・ハヴィシャムの庇護を受けジェントルマンになるのは、労働者階級として低い身分で生きる苦痛の否定であり、高い身分の階級へのしあがることになるのを意味していたのです。

ところが実際は自分が否定していた低い階級(それも犯罪を犯した脱獄員)のマグウィッチのおかげで紳士になれたという事実が、彼に「自分は変わることができない=低い身分に過ぎない」という現実を突きつけることになります。

ピップの大いなる期待は、圧倒的な嫌悪感と共に、「現実はそう簡単に変えられない」という幻滅を味わうことにつながります。

たかりょーの読書感想

ピップがマグウィッチと出会ったことによる影響を考えてみる

物語の序盤で主人公が誰かと「出会う」シーンは、小説読解において非常に重要です。

なぜなら、その人物との出会いが、主人公との関係によって物語膨らんでいき展開に大きな影響を及ぼして、物語全体の流れ・方向性を形成するからです。

『大いなる遺産』では、一番最初にピップが遭遇するのは囚人マグウィッチです。

場所はテムズ川沿いの寂しい教会の墓地。鉄の足かせをはめた恐ろしいマグウィッチはピップを捕まえ、彼を逆さ吊りにして、食べ物とヤスリを持ってこなければ心臓と肝臓を引っこ抜いて食っちまうぞと脅す。

恐怖心からピップは家に飛んで帰り、虐げられている姉とそのやさしい夫ジョーの目を盗んで食べ物とヤスリを手に入れて、囚人のところに持っていきます。囚人は感謝の言葉を述べておいしそうに食べ物をむさぼり食います。

さてこの一連のシーンですが、物語展開においてめちゃくちゃ重要です。

まず囚人への食べ物とヤスリの提供は男への憐れみとはいえ、ピップに罪悪感をもたらします。つまり家族から盗むという行為は、彼の道徳感に強い影響を及ぼして、倫理的な葛藤は自身の行動や存在を深く脅かすことになります。

ここで重要なのは、彼は道徳的な反省を試みることで、自己と接するようになるのです。彼はそれまで姉の支配下の元で従順に生きてきましたが、一種の盗みという「反抗」を行います。そしてこの「反抗」は後に愛すべきジョーにも行います。それはハンヴィシャムの屋形でジョーを恥ずかしいと思い、年季奉公のあと鍛冶屋になることをやめて、ジェントルマンになるという「反抗」です。

もし囚人と出会うことがなかった、こうした「反抗」を行うこともなかったですし、

またこの後、助けたピップの人生に、助けられたマグウィッチは再び登場しますよ。それは莫大な遺産を残すということです。ここで面白いのが、助けると助けられたというのが反対図式になるだけでなく、食べ物とヤスリを与えたことがすなわちピップがジェントルマンになるという筋書きには必要不可欠ということです。

もし囚人に出会うことがなかったら、エステラさんに愛されるように「ジェントルマンになろう」という大いなる期待も持つこともできなかったのです。

このように考えると、この最初に出会いこそ、「大いなる遺産・大いなる期待」という物語が成立しなかったわけなので、非常に運命的な出会いになりますよね。

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この記事を書いた人

読書好きブロガー。とくに夏目漱石が大好き!休日に関連本を読んだりしてふかよみを続けてます。
当ブログでは“ワタクシ的生を充実させる”という目的達成のために、書くを生活の中心に据え(=書くのライフスタイル化)、アウトプットを通じた学びと知識の定着化を目指しています。テーマは読書や映画、小説の書き方、サウナ、アロマです。

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