クリスマスの思い出のあらすじ・感想【カポーティのイノセントな世界】

この記事は下記のような方におすすめです。

  • 「クリスマスの思い出」のあらすじを知りたい!
  • 「クリスマスの思い出」の読みどころと感想を知りたい

遠い彼方。僕(現在32歳)は少年時代を過ごしました。

大人たちからは離れたところで、独自の価値観を作って、“心地よい世界”を作りました。

当然その時は社会という過酷な場所だったり、価値観なんて知りません。

楽しいや嬉しいが全ての基準で、何が面白いか同じ遊びを続けて、

いわゆるイノセントな時代の話です。

そしてクリスマスの思い出は、少なからず誰もが一度は体験した、そんな純粋無垢な世界を追体験できる心温まる小説です。

目次

クリスマスの思い出はどんな小説?

1956年発表のトルーマン・カポーティによる短篇です。

数多くの短編を世に送り出してきた彼ですが、本作は「おじいさんの思い出」、「あるクリスマス」と並んでイノセント・ストーリーと呼ばれる立ち位置の一作。

アメリカの教科書に採用されたり、各国で朗読されたり、今なお世界中で読む継がれている小説なんです。

クリスマスの思い出の実話?

実話ではありませんが、この短篇の背景になっているのは、幼いカポーティの経験。

カポーティは四歳から七歳まで、親戚にあずけられ、アラバマ州モンローヴィルの農場で暮らします。

ただ母親の従兄弟たちからは特に愛情を注がれるわけでもなく、義務感で育てられてきたのです。

だからカポーティは非常に孤独な少年だったのです。ところがそんな中、友情とも呼べる特別な絆で結ばれた人がいます。それが本作の60歳離れている従兄弟スックです。

クリスマスの思い出は彼の少年時代を投影したかのような、心の奥の奥にある「思い出」が語られているのです。

クリスマスの思い出はどんなテーマは?

この作品を読めば誰もが、子供時代特有の「大人たちには分からない子供だけの世界」というのを思い出します。

そして

  • 愛情ってなんだろう?
  • 親切心ってどういうことなんだろう?
  • 毎日を楽しむ秘訣は?

など様々なことを学べる作品です。

僕はすでに大人になってしまっている。

だけれど、どれだけ歳を重ねても、心の片隅で光り輝くささやかな思い出はあるものです。

目に見えない親切心に満ち、私たちの心の琴線に触れる作品です

クリスマスの思い出のあらすじ

「今から二十年以上昔の、冬の到来を告げる朝のことだ。」ではじまる本作。

お金持ちの親戚に育てられ身寄りのない主人公が”ぼく”と、心が子どものままで60歳離れた従姉にあたる老女スック、そして家族のように可愛がる老犬クイニー。

3人は貧しくも協力しながら生活を楽しんでいます。

そして11月終わりの寒い朝、スックは叫ぶ。「フルーツケーキの季節が来たよ!」

彼らは毎年クリスマスになると一つの楽しみがあります。

それは、友人たちにクリスマスのお祝いとしてフルーツケーキを作って送るのです。

今年も彼らは四日間かけて、三十一個のフルーツケーキを作る作業にいそしみます。

実は大イベントである一年かけてせっせと台所の床下にお小遣いをためます。

そして落ちたピーカンの実を探しに行ったり、小麦粉やバターや材料のフルーツ類を買いに行ったり、密造酒のウィスキーを買いにおそろしいインディアンの小屋に行ったり。

貧しいクリスマスを祝うために冬の森に3人でいき、クリスマス・ツリーにするためにもみの木を切り倒し、引きずって持ち帰り、家で飾りつけをしたこと。

そんなささやかな思い出だけれど、忘れがたく小さく輝きながらこころで輝き続ける。

今思えばなんてことのない日々だけれど、ささやかな思い出で彩られた日々。

大人になった今だからこそ読むべき、子供の純真あの日のように純粋な気持ちで楽しめない、

クリスマスの思い出の登場人物

僕バディー

本作の語り手で主人公。7歳の少年。

親がおらず親戚の家で暮らしている。

スック

60歳離れた従姉。身寄りも友達もいないバディーにとっての唯一の親友。

体は大人だが心は子供だから親戚たちには怒鳴られてばかりいる。童女のような

過去に親友だったもう一人の「バディ」もいる

クイニー

ボディーとスックの愛される老犬。

ふたりからは友達のように扱われる。

ハハ

川辺の小屋で密造酒のウィスキーを売るインディアン。

過去に人殺しをしたという噂がある・・・

クリスマスの思い出の読みどころ解説・感想

1.イノセントな共同体

この作品の読みどころは、読書という至高の体験を通じて、バディ、従姉妹スック、クイニーの3者から形成されている「ひとつの共同体」=「誰からも邪魔されない独自の世界」に参加できるということ。

そこは完全にイノセント(無垢)な世界であって、なんの不純物ものなく、とことん”思いやり”という美しくも温かさに満ちた場所です。

村上春樹さんはこのように表現しています。

そのような種類のイノセンスは、多かれ少なかれ誰の少年期、少女期にもあるものだろうと思う。 彼らを取り囲む外的な世界は幼い子供たちが理解し、あるいは対抗するにはあまりにも強大だから、 彼らは自分たちだけの小さな別のミクロコスモスを作り上げて、そこで生きていこうとする。ある場合には動物や老人たちがその仲間になるーーしかし多くの人々は、成長するにしたがって、大人としての能力を身につけるにしたがって、そのような記憶を少しずつなくていく。

ここが大切なのですが、バディ、従姉妹スック、クイニーは自分たちの世界を強固に作り上げることで積極的に“現実世界”から離れていこうとするのです。

なぜなら彼らは現実世界では貧しく弱者という立場だからです。つまり現実(いじめをする親戚が象徴的)という外的攻撃を仕掛けてくる世界から、自分たちの身を守るために、現実から一歩外にでて、独自のコミュニティー形成して、自分たちの居場所を確保しようとしているのです。

そして“家族”のような共同体は、彼ら以外は決して踏み込むことができません。

そこは現実的な価値観も離れているように感じます。

例えば、プレゼントはお互いにし合う、もみの木は買うのではなく森へ見つけにいく。

また「ハハ」さんは貧しい彼らに対して「クリスマスケーキをもらう代わりに、ウィスキーをプレゼントする」

「労働」という価値は失われ、現金ではなく思いやりで物々交換する世界なのです。

悲しい結末

強固なコミュティーは長らくは続きません。

それだけ現実という力は強大で、弱者というのは食い物にされてしまいます。

結末は一言「悲しい」です。

バディーは強制的に寄宿学校にあずけられ、クイニーは死んで、友を亡くしたスックは記憶を失い孤独のうちにあの世へと旅立つ。

つまり、現実に蝕まれることでイノセントま世界はコミュニティーが崩壊するのです。

そして大人へ成長していくごとに、純粋な世界は記憶の彼方へと消えていきます。

ただ物語という形で世界を残すことで、僕のような多くの読者は、時を超えて、親切さに満ちた純粋無垢の“ミクロコスモス”を体験し続けられるのです。

思いやりと温かさに満ちた、物語で満ちている。

まるでクリスマスツリーの飾りのように、小さなエピソードが積み重ねられた本作。

どのエピソードも光輝いています。

例えばクリスマスのために貯めたお金を使ってフルーツケーキを作るシーン。そのフルーツケーキを作る工程がとても楽しそうに描かれています。

ケーキを焼くのが彼らにとっては一年のなかで一番メインイベントのだろう。

そしてそのケーキは自分たちのためじゃない。友人たちのために作るのです。

その友人たちもたった一度しか会ったことのない(一度として会ったことのない)、一方的に好意を寄せた人にプレゼントするのです。

例えばルーズベルト大統領、小柄な包丁研ぎ、バスの運転手、カリフォルニアに住むウィンストンという夫婦。

また僕が好きなシーンは、クリスマスプレゼントで送られた手作りの凧をバディーとスック、クイにーの3人であげるところ。

貧しくともささやかなクリスマスが営まれている。

【あわせて気軽に読んで!】その他、クリスマスの定番小説は?

カポーティーの作品以外にも、おすすめクリスマス小説をまとめています。

選んだ基準は短時間かつ気軽に読めるもの。

外に出るのは億劫だけど、心だけでもクリスマス気分を味わいたい方はぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

読書好きブロガー。とくに夏目漱石が大好き!休日に関連本を読んだりしてふかよみを続けてます。
当ブログでは“ワタクシ的生を充実させる”という目的達成のために、書くを生活の中心に据え(=書くのライフスタイル化)、アウトプットを通じた学びと知識の定着化を目指しています。テーマは読書や映画、小説の書き方、サウナ、アロマです。

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