1.映画『きみの瞳(め)が問いかけている』の詳細なあらすじ・ネタバレ結末
2.映画『きみの瞳(め)が問いかけている』の登場人物・キャスト紹介
「きみの瞳(め)が問いかけている」は目に障害を持った女性と過去に罪を犯した男女ふたりが残酷な運命に立ち向かう恋愛映画です。
主演は吉高由里子と横浜流星。また恋愛映画の旗手・三木孝浩が監督した作品でもあります。
今回はそんな「きみの瞳(め)が問いかけている」のあらすじを紹介していきますね。
映画『きみの瞳(め)が問いかけている』の簡単あらすじ
拭い去れない過去を背負い、抜け殻のように生きる篠崎塁は、目が不自由な女性 柏木明日香と出会います。
明るく前向きに生きる彼女の生きざまに触れるうち、塁も昔の夢を思い出してゆき、二人は惹かれあいます。
しかし、逃げられない暗い過去が塁に迫ってきます。
そして塁と明日香の過去には驚くべき偶然が秘められていました。
その秘密が明らかになった時、塁は全てを掛けて過去を清算する決意をします。
塁は暗い過去を振り払う事が出来るのでしょうか?
二人の行く末はどうなるのでしょうか?
映画『きみの瞳(め)が問いかけている』のあらすじ詳細
それでは『きみの瞳(め)が問いかけている』のあらすじを詳しく紹介していきますね。
あらすじ・ネタバレ1【暗い過去を背負う青年 塁】
酒屋の配送などで生活費を稼ぎ、世間から逃げるように暮らす青年 篠崎塁。
その表情に覇気はなく、いつも虚ろな表情をしていました。身なりに気を使う事もなく、ボロボロの服を着て入浴もロクにしない生活でした。
ある日、駐車場の管理人のバイトに応募します。
前任者の老人は突然に行方が分からなくなったそうで、狭いながらも住み込み用の部屋もありました。
早速仕事に入り、駐車場入り口の管理人室に座っていると、突然若い女性が隣に座ります。
「もう、ドラマ始まっちゃった?」
女性は視線が定まらず、目がよく見えていないようでした。
塁が何か言うより先に「はい、いつもの」と差し入れのミカンやいなり寿司を手渡してきました。
「あの・・・」
やっと塁が声を発すると、女性はやっと彼が以前いた老人ではない事に気付き驚きます。
女性の名は柏木明香里。毎週ここでTVドラマ「Last Love」を見せてもらうのが習慣でした。
明日香は管理人室を出て行こうとしますが、折しも外は雨で、塁は呼び止めて管理人室のTVでドラマを見せてやりました。
彼女はTVの音声を聞き、時々登場人物の服装などを塁に訪ねて、場面を頭に思い描いていました。
「私、目が見えない分、匂いや音に敏感なんです」
そのせいで塁は足の臭気を指摘され、気まずい思いもしました。
そして、ドラマを見終わった明日香は管理人室に置いてあるキンモクセイを枯らさないように言い残して帰ってゆきました。
次の週も、明日香は管理人室にやって来ました。
今までファッションやアクセサリーに一切興味のなかった塁ですが、明日香の為にドラマの登場人物の服装などを説明する内に、そういうモノにも関心を持つようになりだします。
明日香も塁の事に興味を持ち出し、どんな容姿なのかも聞いてくるようになりました。しかし、しわがれ気味の声や、汗臭さなどから年齢層が自分よりかなり上だと思い込み、干支がネズミだと聞いて36歳だと勘違いしていました。
仕事の合間、塁はある所に出かけました。
緊張した面持ちで入っていったのは大内キックボクシングジム。
塁は数年前までこのジム所属のプロで、将来を嘱望されていました。しかし、突然姿をくらまして音信不通だったのです。
塁をジムにスカウトし、鍛えてくれた原田トレーナーは手放しで再会を喜んでくれましたが、ジムのオーナー大内会長は一人前にしてやった恩を忘れて姿を消した塁の行動を許してはいませんでした。
「戻ってくる気が無いなら、もう二度と顔を見せるな!」
そう怒鳴られ、目の前にグローブを突き出されましたが、塁がそれを受け取る事はなく
「申し訳ありませんでした・・・」
とだけ呟いて頭を下げ、ジムを出て行ってしまいました。
あらすじ2【光を失った女性 明日香】
明日香は日中、家電品のコールセンターで働いています。客からのクレームを聞き続ける日々で、時には心身ともに疲れ果てる日もありました。
上司の尾崎は明日香にコンサートのチケットやアクセサリーをプレゼントして必要以上に彼女と親密になろうとしているような気配があります。
しかし、視覚障碍者を受け入れてくれる職場は限られていると、明日香は不平不満を心に押し込めて暮らしていました。
そんなある日、浴室の排水溝が詰まってしまい、床が水浸しになってしまいました。洗濯物を洗濯機から取り出そうとやって来た明日香は、浴室に入ってからその事に気付いて驚き、足を滑らせて怪我をしてしまいます。
仕事の帰り、いつもどおり塁のいる管理人室にやってきた明日香でしたが、足首に包帯を巻いていた為に類を驚かせてしまいます。
TVドラマが終わって帰ろうとした明日香でしたが、いつも通り歩いて帰るのは辛そうだと思った塁は送ってゆくと申し出ました。明日香は
「きっと後悔するよ」
と躊躇いましたが、塁は彼女を背負って家に向かってくれました。
しかし、あともう少しで家に着くという所で塁は唖然とします。明日香の家は高台の上にあり、そこまでは長い階段が続いていたからです。
それでも塁は明日香を背負って階段をのぼりきり、息も絶え絶えになりながらも彼女を送り届けました。
玄関の前で、明日香は塁に、今度一緒にクラッシックのコンサートに行ってほしいと頼みます。
そして数日後、塁に連れられて明日香はコンサート会場に行き、塁から奏者や会場の様子を聞きながら音楽を堪能しました。
コンサートの後、二人は「一度は行ってみたいと思っていた」と言う明日香の希望で焼き肉屋に行きました。
明日香は色々と話しかけてきましたが、塁は過去や生い立ちについてあまり語ろうとしませんでした。
食事が進むうち、明日香が一人で焼き肉にこなかった理由が明らかになってきました。
目が不自由な明日香は、塁に取り分けてもらっても何度か肉を受け損ね、胸元を汚してしまっていました。
それほどに明日香にとって一人で焼き肉を食べるのは難しい事だったのです。
その様子に心が和んだ塁は、店を出て別れる間際に自分の本名が「篠崎・アントニオ・塁」で今年24歳だと明かしたのでした。
明日香は勘違していたと知って恥ずかしく思いながらも、塁との距離が縮まった感じがして嬉しくもあったのでした
あらすじ3【交わり、変ってゆく二人の日常】
ある日、塁は大内会長と原田トレーナーを呼び出していました。
しかし、なかなか話し出す事が出来ずに沈黙が続いていました。
「我慢大会じゃないんだぞ!」
大内会長が怒鳴って立ち去ろうとした時
「俺、刑務所に入ってました!」
とやっと切り出す事が出来ました。
以前、塁はアンダーグラウンドの闘技場で選手として戦いながら、同じように孤児で幼馴染の佐久間がリーダーの半グレ組織「ウロボロス」の一員として汚い仕事もしていました。偶然、闘技場で塁の試合を見た原田トレーナーにスカウトされて正規の試合に出るようになっても、昔の仲間に頼まれて闇金融の借金の取り立てや用心棒、アンダーグラウンドの試合出場は続けていたのです。
ある日、坂本と言う男が姿を消しました。
坂本は多額の借金をして「ウロボロス」に身柄を拘束され、偽口座の開設など犯罪の片棒をされていたのですが、特殊詐欺で受け取った金を持ったまま逃走してしまったのです。
佐久間や塁は坂本を捕まえ、事務所で制裁を加えていました。しかし、その途中で警察に踏み込まれて逮捕され、懲役刑を受けていたのです。
塁は突然音信不通になってしまっていた事を大内会長と原田トレーナーに謝罪し、今後は表の世界で試合をしてゆきたいと申し出たのでした。
同じ頃、明日香は仕事中に尾崎に呼び出されます。
先日、クラッシクコンサートのチケットをプレゼントしてくれたのも実は彼でした。コンサートの感想が聞きたいとレストランに誘ってきますが、その強引さに不穏なものを感じた明日香は丁重に断りました。
その日の夜、明日香が自宅に帰ると尾崎が玄関の前で待ち構えていました。明日香は驚きましたが
「仕事の話があるから」
と尾崎は半ば強引に家の中に入ってしまいました。
中に入った尾崎は、仕事の話などせずに明日香に迫ってきました。怯えた明日香は抵抗しますが、押し倒されそうになります。
危ない所で、尾崎は引きはがされます。偶然やってきた塁が、明日香を助けに飛び込んできたのです。頭に血が上った塁は尾崎を殴り倒し、壁に押し付けて
「今度やったら・・・殺す!」
と脅してから指をへし折りました。尾崎は動転しながら、一目散に逃げてゆきました。
尾崎が立ち去った後、暫く呆然としていた明日香でしたが、突然塁に食って掛かります。
「明日から仕事に行かなきゃいけないのに、どうしてくれるの?!目が不自由な人間が仕事を探す事がどれだけ難しいか分かる?」
その剣幕に押され、塁は帰るしかありませんでした。
次の日、駐車場の管理人室にいた塁の元に明日香がやって来ました。
「仕事、辞めてきた。スッキリした~!」
そう言って明日香は気持ちよさそうに笑ったのでした。
その日以来、塁は明日香の家に頻繁にやって来るようになります。
明日香が留守の間に、塁は家の段差をなくし、カーテンも光が差し込んで部屋全体が明るくなるものに替えました(明日香の視力は完全に失われている訳ではなく、光を感じる位は出来るのです)。
そして、部屋の机に明日香が好きな「ロミオとジュリエット」のセリフ「きみの瞳(め)が問いかけている」
と点字で刻みました。
部屋に戻って来た明日香は部屋の雰囲気がすっかり変わっている事に気付いて、とても喜びました。
そして塁の横に座り、顔を両手で挟んで覗き込み
「私の瞳(め)、よく見ていて」
と言いながらキスをしたのでした。
その日から、塁は前にもまして練習に打ち込み始めました。そして、試合に出場しては勝ち星を挙げ続けました。
プライベートでは明日香と一緒に暮らし始め、すくすく育つように「スク」と名付けた子犬を飼い始めました。
明日香も、手の感触を頼りに彫刻や陶器を作り始めました。製作中
「両親が好きだった」
と「椰子の実」と言う曲を歌っていました。やがて、塁もそれを覚えて二人で口ずさむときもありました。
更に明日香は点字で書かれたマッサージの本を読んで勉強を始め、経験を積むために練習や試合で疲労がたまった塁の体を揉み解してくれるようになりました。
あらすじ4【逃れられない過去】
しかし、二人の平和で穏やかな日々は突然破られます
ある日、試合後に控室に向かおうとしていた塁の前に、かつての仲間で「ウロボロス」のリーダー佐久間と部下の久慈が現れます。
「俺たちは日の当たるところでは生きられない。昔みたいに一緒に稼がないか?」
と誘われますが、塁は「もう戻る気はない」とその場を立ち去りました。
佐久間と再会した事で、塁は自分の過去を思い知らされます。
孤児だった塁の、母親との最初で最後の記憶は浜辺でした。幼い塁を抱いたまま母親は海に入って行き、塁だけが助かりました。
そして、シスター大浦が経営する孤児院「太陽の家」に引き取られ、アントニオの洗礼名を貰ったのです。
母親が死に自分だけが生き残ってしまった事、そして犯罪に手を染めてしまった事の後悔を塁は未だに忘れられずにいました。
悩んだ塁は、久しぶりに「太陽の家」を訪れました。シスター大浦は塁を昔と変わらない笑顔で迎え
「過去の罪は清められたのよ」
と、施設の子供と職員のシスターたちが作ったポプリを手渡してくれました。
ある日、明日香は塁を
「特別な場所に案内する」
と連れ出しました。明日香の服装はいつもと違い、黒っぽい喪服のようでした。
連れて行かれた先は、明日香の両親が眠る墓地でした。
「大切な人が出来たから、連れてきたよ」
そう言って明日香は両親の墓前に塁を連れて行って紹介しました。
そして、明日香は両親と自分に何が起こったかを話し出しました。
4年前のクリスマス。大学で彫刻を勉強していた明日香は、免許を取ったお祝いも兼ねて自分が運転する車で両親と旅行に出かけようとしていました。
その途中、明日香は通りかかったビルの窓から火に包まれた人間が落ちてくるのを目撃します。それに気を取られた明日香はハンドル操作を誤って前の車と接触し、横転してしまったのです。
その事故で明日香の両親は亡くなり、明日香も目にケガをして視力を失ってしまったのでした。
その話を聞き、墓に刻まれた明日香の両親の命日を見詰めながら、塁は茫然と立ち尽くしていました。
明日香の両親が死んだ日は、実は塁が警察に捕まった日でもあったのです。
あの日、金を持ち逃げして制裁を受けた坂本は、自分の家族にまでウロボロスが危害を加える事を恐れ、とっさに傍らにあったガソリンを頭から被り、自らの体に火をつけ、窓から飛び降りて自殺したのでした。
あの日、明日香が事故を起こす原因を作ったのは、他ならぬ塁だったのです。
その事に気が付いた塁は、とてもそれを明日香に打ち明ける勇気はなく、苦悩しながら誰もいないジムでサンドバッグを打ち続けるしかありませんでした。
あらすじ5【明日香が倒れる・塁の決戦】
数日後、「太陽の家」を再び訪れた塁は、シスター大浦に悩みを打ち明けました。
「貴方の罪はすでに許されている。貴方が自分自身を許していないだけ」
と、シスター大浦は励ましてくれました。しかし、塁の心は晴れませんでした
数日後、明日香が突然めまいに襲われて倒れてしまいます。
入院して検査をした結果、めまいは大したことが無かったものの、明日香の目が網膜剥離を起こしている事が分かりました。医師からは、早く手術すれば視力も回復すると言われましたが、明日香は
「今のままでいい」
と手術を拒否します。目が見えなくなったのは、自分が両親を死なせてしまった罰だと明日香は思い込んでいたのです。
しかし、塁に
「目を治して、二人の子供の顔を見たくない?」
と言われ、ようやく手術を受ける決心がついたのでした。
塁は高額な手術代を稼ぐ為、一度だけ地下の試合に出てほしいと言う佐久間の申し出を受ける事にしました。
佐久間達は明日香の事も嗅ぎ付け、家のドアにウロボロスのマークが書かれていた事もありました。申し出を受けたのは、これ以上佐久間達に明日香の周りをうろつかせない為でもありました。
塁は原田トレーナーに、もう試合に出られないと告げました。このままいけばトーナメントで優勝する事も夢ではなかったので、原田トレーナーは非常に悔しがりましたが、塁の意志の固さを知って最後には諦めてくれました。
試合は対戦不能になるまで続けられるルールで、五体満足で終わる保証のない危険なものでした。
塁は自分の身分証明書や明日香とのつながりを示すものをすべて処分し、手術室に向かう明日香を見送った後で試合が行われる会場に向かいました。
塁が参加させられた試合は、半グレ組織や暴力団達が抗争の代わりに行っているものでした。そして、非合法な掛け試合として大きな金が動くビックビジネスでもあります。各組織1人ずつ選手を出し、勝った組織がその後の発言力が大きくなるとあって、どの組織も強力な選手を送り込んできていました。
試合直前、塁は対戦相手が変更になったと告げられます。
試合が始まり、リングの入って来た対戦相手は塁より体格が大きくパワーがありそうな外国人でした。
全ては仲間になりそうもない塁を潰し、相手の組織に勝ちを譲って華を持たせようとする佐久間の策略でした。罠であることは明白でしたが、塁に逃げ道はありません。ゴングが鳴れば戦うしかありませんでした。
案の定、試合は絶対的に塁が不利でした。
塁が攻撃しても分厚い筋肉に守られた相手には通じません。逆に、パワーで勝る相手の攻撃が当たる度に塁はダメージを受けてゆきました。
やがて塁は追い詰められ、殴られ続けました。
そして遂にダウン、気絶して床に倒れ込む・・・と皆が思った瞬間、残りの力を振り絞って塁が放った胴回転回し蹴りが相手の顎にクリーンヒットしました。
油断していた相手は気絶し、塁は劇的な逆転勝利を収めました。
大番狂わせに会場が騒然となる中、大穴を当てて大金を手にしている者がいました。
それはフードで顔を隠した原田トレーナーでした。
塁が、自分に掛けるよう事前に頼んでいたのでした。
一方、顔を潰された佐久間は怒り心頭の表情でVIP席を後にしました。
数時間後、塁は人気のない場所にある電話ボックスで原田トレーナーと話していました。
頼んでおいた通り、原田トレーナーは試合で得た大金の半分を明日香の手術代、残り半分を4年前に焼身自殺した坂本の遺族宛てに振り込んでくれました。
全て上手く行ったと安心した塁が電話を切って立ち去ろうとした時、背後に忍び寄ってきた車が急発進して塁を跳ね飛ばしました。その車の後部座席に乗っていたのは佐久間でした。更に、地面に倒れた塁の背中を、車から降りてきた佐久間の部下 久慈が何度もナイフで刺しました。
やがて、塁が気絶したのを見届けた佐久間は、車の窓を閉めてそのまま立ち去ってゆきました。
ネタバレ結末【再開】
それから数日後、包帯を取った明日香の目は無事に視力を取り戻していました。
しかし、いくら病室で待ち続けても、退院して幾日経っても塁が再び姿を現す事はありませんでした。
明日香は目が不自由な時から手の感覚を頼りに作り続けていた塁の胸像を完成させました。しかし、その顔が似ているかどうか分からず、明日香は悲しみにくれました。
やがて、二人で暮らしていたアパートが老朽化により建て替えられることになりました。
引っ越しの日、塁宛てに荷物が届きました。それは太陽の家から送られてきた手作りのオルゴールとポプリでした。オルゴールから流れてきたのは思い出の曲「椰子の実」でした。
その荷物の住所を頼りに太陽の家を訪ねた明日香は、そこではじめて塁が事故の原因を作った張本人である事、それに気づいてずっと苦しみ続けていた事を知りました。
しかし、シスター大浦も塁の行方は知らず、手掛かりはそこで途絶えてしまいました。
2年後、明日香は自分が作った陶器や雑貨を売るショップを経営していました。
また、病院で入院患者にマッサージをするボランティアも始めていました。
ある日、いつも行く病室に新しい患者がやって来ていました。
それは身元不明の重傷者として病院に運ばれた塁でした。
発見された時は意識不明で、身分を示すものも身に着けておらず、それからずっと仮名のままで過ごしてきたのです。また、ずっと寝たきりで筋肉も落ち、体格も変わってしまっていました。
その為、マッサージを始めた明日香も塁だとは気づきませんでした。
そして、自分がいない方が明日香の為になると思っていた塁も、声を掛ける事はありませんでした。
数か月後、松葉づえで歩けるようになった塁は、同じ病室だった患者から場所を聞いて明日香の店にやって来ました。
店の前に立った塁は衝撃を受けます。店の名は「SHOPアントニオ」だったのです。
意を決して店に入ると、折しも明日香は留守でした。
塁は、陳列されていたキンモクセイの鉢植えを見つけ、初めて会った時の事を思い出して買う事にします。包装してもらっている時、棚にあったオルゴールを見つけ、思わす蓋を開けてみると「椰子の実」がなりだしました。胸が一杯になった塁は思わず涙を流しますが、怪訝そうな顔をしている店員に気付き、慌ててキンモクセイを受け取って店を出てゆきました。
その直後、明日香が店に戻ってきました。傍らには成犬になったスクもいました。
そして、長い間置いてあったキンモクセイが売れ、その人が「椰子の実」を聞いて涙を流していたと聞いて、それが塁だと気付きます。
慌てて外に飛び出し、松葉杖をついている人を探し回りますが、すでに塁の姿はありませんでした。
数時間後、塁は母親と最後に過ごした浜辺に来ていました。
もう思い残すことはないと言う表情でどんどん海に入ってゆく塁。
その時、犬の鳴き声を耳にして立ち止まりました。
振り返ると、そこには明日香とスクがいました。
堪らず塁は明日香の方に歩み寄って行きました。
明日香は歩いて来た塁を抱き留め
「私の顔を見て」
と両手を塁の顔にあて
「一緒に帰ろう」
と目に涙を溜めながら微笑んだのでした。
映画『きみの瞳(め)が問いかけている』の主要キャラクター
・柏木明香里(演:吉高由里子)
事故により両親を失い、目も不自由になった女性(完全に見えない訳ではく、光を感じる程度は出来る)悲しい過去や不自由にも負けず、明るく日々を過ごしている。
・篠崎塁(演:横浜流星)
元は将来を有望視されたキックボクサー。親のいない孤児として「太陽の家」で育てられ、そこで出会った佐久間に半グレ組織「ウロボロス」に勧誘され、アンダーグラウンドのリングで闘っていた時に大内ジムにスカウトされた。しかし、逮捕されて消息を絶ち、人目を避ける生活を送っていた
怒ると暴力的になる一面と、優しい一面を併せ持っている。
・原田陣(演:やべきょうすけ)
大内ジムのトレーナー。塁をアンダーグランドの試合場で見つけ、才能を見込んでスカウトした。塁にはチャンピオンになれる実力があると信じ、公私ともに支えてくる理解者。
・大内会長(演:田山涼成)
大内ジムのオーナー会長。突然いなくなった塁に厳しく当たる事もあるが、心の底では信頼している。
・大浦美恵子(演:風吹ジュン)
シスターで孤児を育てる「太陽の家」の代表。孤児である辛さや罪を犯した過去に苦しむ塁の良き相談相手
・佐久間恭介(演:町田啓太)
半グレ組織「ウロボロス」のリーダー。冷酷で、目的の為には犯罪に手を染める事にも躊躇はない。塁とは同じ施設で育った幼馴染だが、犯罪の片棒を担ぐメンバーや闇試合のファイターとして利用する事しか考えていない。
・坂本晋(演:岡田義徳)
佐久間達に多額の借金をした事で犯罪の片棒を担がされるようになった男。いつか、家族と再び暮らす事を夢見て、組織の金を奪って逃げてしまう。そして捕まり、家族を守るために焼身自殺をした。その事がるや明日香の運命を大きく変える事になる
映画『きみの瞳(め)が問いかけている』のまとめ
暗い過去を背負った青年と、事故により視力を失った女性との物語です。
主人公である塁は、幼い頃に母を亡くして孤児となり、誘われるままに犯罪に手を貸していました。
息がつまるほどの暗い過去を背負って生きてきた塁は、一度は表の試合に出て日の当たる世界で生きるチャンスを目の前にしながら、警察に捕まってそれをフイにしてしまいました。
犯罪に手を染めるのは許される事ではないですが、塁の身上を考えると、そうなるしかなかったと思わざるを得ません。
全てを失って、何の希望もない日々を送っていた塁の心を動かしたのは、目が不自由ながら明るく前向きに生きる女性 明日香でした。
最初はただ一緒にTVドラマを見るだけでした。それが、彼女と一緒の時間を過ごす内に日常の色々な事に関心を持つようになり、人生に彩りを取り戻してゆく塁の様子が心に染みました。
重く辛い過去を抱えて生きてきた二人が惹かれあい、共に生きてゆこうとした時、思いもかけない秘密が明らかになり、塁は苦悩します。
「どうして神は塁にそんな運命を課すのか?」
と言いたくなるような過酷さです。
そして、命の保証さえない戦いに身を投じて過去を清算する決意をします。
しかも、佐久間の策略で勝ち目のない相手との対戦でした。
絶体絶命の場に臨むその姿は悲壮感に満ちていました。
塁を演じる横浜流星さんは、かつて空手の世界大会で優勝経験もあり、格闘シーンはリアルで迫力がありました。
特に最後の決め技 起死回生の胴回転回し蹴りは息をのむ程に速く、美しく、見事でした。
そして、塁に寄り添う明日香の天真爛漫さやひた向きさも素晴らしかったです。見ている内に、こちらまで心が晴れ、穏やかになるような気がしました。
戦いの時とは打って変わり、明日香を支える塁の優しい表情も良かったです。
二人から色々なものを奪って引き離してしまった「運命」が、今度は二人を導いて遂には再会させる結末は感動的でした。
不幸にも負けず明日を信じて立ち上がる勇気や、日々の中に小さな幸せを見つけて明るく生きる事の素晴らしさを教えてくれる映画でした。