1.映画『恋人たち』の詳細なあらすじ・ネタバレ結末
2.映画『恋人たち』のキャスト紹介
映画『恋人たち』は実現しえない願望に恋い焦がれながら生き、やがて現実に打ちのめされて傷つき、それでも日々を生きてゆく3人=「恋人たち」を描いた群像劇です。
有名な俳優さんは出演していませんが、「演技力すごくない?」と思うくらい、俳優さんたちのリアルな演技にも驚かされます。
特にアツシ役を演じた篠原篤さんは、ドン底で苦しみながらもがく様子はほんと息がつまるようで、心に深く刺さりました。
心のつながりや孤独、信じるものなど色々と考えさせられる一作です。
映画『恋人たち』はこんな人におすすめの映画
- フィクションであっても、人間のリアルな苦しみや孤独を丁寧に描いた作品を見たい人
- 人を愛するとは?人に愛させるとは?を考えたい人
- 生きるとはなにか?と改めて考えらえるような作品を見た人
映画『恋人たち』簡単あらすじ
橋梁点検作業員のアツシは、その正確な仕事ぶりから職場でも信頼されています。
しかし数年前に通り魔に妻を殺され、消えない後悔と持って行きようのない憎しみに密かに苦しんでいました。
郊外に住む主婦・瞳子は、自分に無関心な夫とその母親との生活に満たされないものを感じ、心のどこかで彩りを求めていました。
弁護士で同性愛者、完璧主義の四ノ宮は他人を見下す発言ばかりしています。ある日、石段の上から誰かに突き落とされて骨折しても、年下の彼氏への偉そうな態度を改めず、愛想をつかされてしまいます。そして、些細な行き違いから、親友さえも彼から離れていこうとします。
叶えられる事のない願いを抱えた3人は、居心地の悪さを感じながら、それでも生きてゆくのでした
映画『恋人たち』の登場人物(キャスト)
篠塚アツシ(演:篠原篤)
優秀な耳を持つ橋梁点検作業員。
3年前、妻 里子を通り魔事件で失い、一時期仕事が出来ないほど落ち込んでいた。せめて犯人に思い知らせたいと、損害賠償請求を起こす相談を弁護士(四ノ宮)にしていた。
東京在住だが九州の出身らしく、訛りが抜けない。
高橋瞳子(演:成嶋瞳子)
弁当屋でパートをする主婦。
お姫様が登場する少女漫画のような小説(挿絵付き)を書く事と、雅子様を見るのが趣味。
雅子様を友達と見に行き、インタビューされた姿がTVで流れたのが自慢。
夫とは職場恋愛で結ばれた(劇中で「口説かれたと後で知った」と語っている)。義母も同居しているが、ラップをずっと使いまわすほどのけち臭さに嫌気がさしている。
ぼんやりした性格であまり空気が読めず、仕事ができる方ではない。義母にもタメ口を使う。
一人でタバコを吸う時がある。
四ノ宮 (演:池田良)
「1時間5万円」の優秀な弁護士。ゲイで、若い男と同棲してる(嫌味を言い過ぎて、劇中で出て行かれる)。企業法務が専門だが、刑事事件を割り振られる事もある。(アツシの事も担当している)。
ゲイ仲間としゃべる時にはオネエ言葉になる事もある。
学生時代からの友人、聡の事がずっと好きだったが告白はしていなかった。
聡(演:山中聡)
四ノ宮の昔からの友人。不動産業者。四ノ宮がゲイだと知っても変わらずに友人であり続けたが、四ノ宮の恋心には気が付いていなかった(あるいは、気付かないふりをしていた)妻の悦子から「四ノ宮が翔太(息子)にイタズラしている」と言われたのをきっかけに距離を置き始める。
藤田弘(演:光石研)
食肉業者で、瞳子が働く弁当屋に納入していた。東北の出身。バーのママ、吉田晴美と組んでマルチまがいの「美人水」を売っていた。
吉田晴美 (演:安藤玉恵)
ひなびたスナック「アムール」のママ。食肉業者の藤田と組んで、水道水をペットボトルに詰めた「美人水」をマルチまがいのやり方で売っていた。
昔、何かの準ミスに選ばれた事がある
黒田大輔(演:黒田大輔)
アツシの上司で先輩。左腕がない。温厚な性格で、道を踏み外しそうなアツシを優しく見守っている。
映画『恋人たち』のあらすじ・ネタバレ詳細
あらすじ・ネタバレ1【主人公3人の日常】
アツシが結婚直後の話を語っているところから場面は始まります。
アツシは婚姻届けに署名した直後、妻に禁煙を宣言します。しかし、結婚したという実感をかみしめている間に、無意識のうちに一本吸ってしまいます。
アツシはすぐに吸殻を隠してごまかそうとしましたが、臭いで気づかれます。怒られると覚悟しましたが
「少しずつ、減らしていけるといいね」
と言われただけでした。
「今から思えば、妻も結婚したことをそれなりに喜んでくれていたんじゃないかと思うんです」
アツシは上気した様子で語っていました。
アツシの仕事は小さな会社の橋梁点検作業員です。
ボートで橋を支える柱(橋台・橋脚)に近づき、耳をつけ、ハンマーでたたいた音で内部の構造を探って点検する仕事です。
「すごいですね」
「あいつの耳は機械より正確なんだ。よく勉強しなさい」
まだ入ったばかりの新人 大津は、片腕のない主任 黒田に言われてますます尊敬の目でアツシを見ていました。
ボートから降りた後、アツシは黒田に給料の前借を願い出ます。再三の前借にもかかわらず、黒田は社長に掛け合ってみると笑顔で約束してくれました。
事務所では、大津が「美人水」と書かれたペットボトル入りの水を女子社員達に薦めていました。
「このあいだ、道で奇麗な女の人に出会ったんです。その人に誘われて出た集まりで、この水を教えてもらったんです。俺、その人と結婚します。決めたんで」
他の社員に馬鹿にされても、大津は熱く語っていました。
その様子をアツシは遠い目で眺めていました。
アツシは日々の暮らしにも無頓着で、髪や髭は伸び放題、食事は何日も前に作ったカレーをパンに塗ったものを食べて済ます有様でした
アツシは長い間、体の不調で内科に通い続けていました。しかし、健康保険料を払っていない事を医師に咎められ、イライラしながら帰りました。
歩きながらブツブツ文句を言っているアツシを見て通行人が怯え
「怖~い、あの人」
と言ったのを聞きつけ、苛立ちは更に募ってゆきました。
家についてもイライラは収まらず
「お前ら、俺と同じ目にあってから言えよ。同じ目に会ったら、お前らなんか首くくって死ぬだけだろうが!」
と、部屋の中を歩き回りながら文句を言い続けていました。
埼玉の郊外にすむ主婦・高橋瞳子は深夜、一人で録画したニュースを見ていました。
それは天皇陛下のパレードの様子を報じたもので、沿道で旗を振っていた瞳子と友達がインタビューを受けたのです。
TV画面に映っている自分と友達を見ながら、瞳子はニヤニヤ笑っていました。
夫が起きてきましたが、特に何か言う訳でありませんでした。トイレに向かったので
「お義母さん、入ってるわよ!」
と言うと、無言のままで踵を返し、部屋に戻ってゆきました。
昼間、瞳子は弁当屋でパートをしています。
そこは社長夫妻と数人の女性がパートで働いている小さなところで、皆が容器に流れ作業でご飯やお惣菜を詰めてゆきます。
その日は、社長の奥さんの機嫌が悪く、作業中にしょっちゅう夫(社長)に怒鳴り散らしていました。
後になって、奥さんの機嫌が悪かったのは、数日前に家で夫の浮気相手と鉢合わせしてしまったせいだと分かります。それをきっかけにパートの女性たちは夫の浮気の話で盛り上がりだします。
「まぁ、うちもとは旦那とは色々あったけれど、お姑さんがクッションになってくれて何とか乗り切れたわ」
と話しているうちに1人がそうつぶやき、数年前に亡くなってしまったというお姑さんを思い出して涙さえ流し始めました。
「私、お姑さんの事を思い出して泣くなんて一生ないと思うわ・・・」
瞳子は冷めた目でその姿を眺めていました。
そんなある日、社長の奥さんがイラついた声で瞳子を呼びました。
鶏のモモ肉を注文したはずが、納入されたのは胸肉だと言うのです。
「ちゃんと電話で注文してくれたのよね?」
「はい・・・『いつものお願いします』と言ったら、お肉屋さんも『分かりました』と言って・・・」
「モモ肉じゃないと、明日の献立のメニューが変わっちゃうじゃない。筑前煮を作ろうと思ってたのに!」
奥さんの叫び声を聞いた社長が飛び出してきて、奥さんを宥めて連れてゆきました。
残された食肉業者の藤田は
「・・・筑前煮がどうだってんだよ・・・」
と呟いて出てゆきました。
朝、弁護士の四ノ宮は今日もピシッとしたスーツを着て事務所にやってきました。
午前中、四ノ宮は新婚旅行で相手に結婚歴があったと分かり、結婚詐欺で訴えたいと相談に来た女子アナの話を聞いていました。
企業法務が専門の四ノ宮にとって刑事事件はただでさえ不慣れなうえに
「おかしいと思ったんですよ。新婚旅行の飛行機がエコノミーだなんて。せめてビジネスだと思いません?」
「詐欺の利益?ワタシ、私を得たことです!彼は女子アナの私と結婚してステータスが上がるという利益があったんです」
と自分の思いをぶちまけ続けるような話しぶりに戸惑うばかりでした。
午後は専門の企業法務関係の打ち合わせで、自信満々に
「こういう案件は、街角に看板を出しているような弁護士ではダメです。クオリティ、つまりレスポンスの速さが違いますから」
と語ってクライアントを感心させていました。
そのまま意気揚々と帰ろうとしていましたが、途中の階段で突然何者かに後ろから突き飛ばされ、転げ落ちて足の骨を折ってしまいました。
数日後、四ノ宮の病室に古くからの友人 聡が息子の翔太、妻 悦子を連れてやって来ました。
四ノ宮は聡にペンを渡して、ギプスに何か書いて欲しいと頼みます。
実は、渡したペンは四ノ宮が弁護士になった時に聡がプレゼントしてくれたものでしたが、気付く様子はありませんでした。
実は四ノ宮は同性愛者で、聡にはその事を打ち明け、彼の家族もその事を知っています。
その為、悦子は四ノ宮のパートナーが病室にやって来ても
「若~い」
と明るく振舞っていましたが、実は四ノ宮が
「耳が父さんソックリだなー」
と翔太にベタベタ触っている様子を不安そうな眼で眺めていました。
あらすじ・ネタバレ2【崩れ行く3人の日常】
13か月滞納していた保険料をいくらかでも払おうと役所にやって来たアツシ。
なけなしの1万円を差し出しますが、役所の職員は呆れたように
「もっと払えませんか?5万とか10万とか」
「次はいつ来れますか?1週間後とかはどうですか?」
と言ってきました。アツシが
「これだけしか払えません。生活、苦しいんで」
と言っても
「去年の年収は幾らですか?通帳、持ってませんか?」
「支払いは国民の義務です。支払わないと、今後、保険は一切適用されなくなりますよ」
と言われてしまいます。
腹に据えかねたアツシは、職員の目を見据えて話し始めました
3年前、奥さんが通り魔に殺され、ショックで仕事が出来なくなった事。
5人の弁護士に相談しても“こんな世の中だから仕方がない”としか言ってくれなかった事。
話を聞いた職員は黙って1万円を受け取り、有効期間1週間の保険証をくれました。
「1万円で1週間って、あなたの胸先三寸で決まるんですか?」
と聞くと
「そうですよ」
とだけ答えて職員は奥に引っ込んでしまいました。
うらぶれたスナック「アムール」の中で、ホステル兼ママの晴美は「美人水」と書かれたペットボトルに水道水を詰めていました。
まだ昼間で客はいませんが、カウンターには食肉業者の藤田が座っていました。
水を詰め終わった晴美は、庭にいる鶏を絞めて欲しいと藤田に頼みます。
「可哀そうだろう・・・」
とこぼしながらも鶏小屋の前にやって来た藤田でしたが、うっかり鶏を逃がしてしまいます。
追いかけていった藤田は、丁度パート終わりで弁当屋から出てきた瞳子と出くわします。
二人は水田に逃げ込んだ鶏を、泥だらけになりながら捕まえました。
「やったー!」
とはしゃぐ瞳子の目の前で、藤田は鶏の首をへし折りました。
その日の夜、貰った鶏肉を鍋にして食べながら、瞳子は昼間の事を夫や義母に話していました。
「本当に凄いの。鳥を締めるところなんて、初めて見たわ!」
瞳子は興奮して目をキラキラさせながら語りますが、話の生々しさに他の二人は顔をしかめていました。
「そんな肉、大丈夫なの?ばい菌とか・・・」
「大丈夫よ。お義母さん、ばい菌なんかじゃ死なないでしょう」
その途端、夫は怒って瞳子を殴り、そのまま部屋を出て行っていってしまいました。
訳が分からない瞳子はただ呆気に取られた表情で座り込んでいました。
黒田や大津と定食屋で食事をしていたアツシは、TVニュースに目を奪われます。
そのニュースは、3年前の通り魔事件の犯人に心神耗弱で措置入院が認められる判決が出たと報じていました。
ショックを受けたアツシは、衝動的にフラフラと川に入って行き、橋脚を見つめていました。
そこへ大津がやって来ました。
「何処か、悪い所ありました?」
「・・・全部だよ、全部ぶっ壊れてる」
アツシは橋脚に大きく「×」と書いて、その場から立ち去りました。
昼間、一人で家にいた瞳子。趣味の小説を書いていましたが、一休みして窓の外に目を向けると、そこに藤田が立っていました。
先日、晴美から進められて購入した美人水を持ってきてくれたのです。
瞳子がお茶を持って来る間に、藤田は床に散らばっていた小説の原稿を読んでいました。
「やだ、見ないで!」
恥ずかしがる瞳子。
そのうち二人はいい雰囲気になり、成り行きで体の関係を持ってしまいます。
後日、瞳子は「アムール」に水の料金を払いに行きました。
そこには藤田はおらず、不貞腐れた顔の晴美が大量のペットボトルを処分していました。
「田舎って面倒くさいね。いろんなこと言われちゃって・・・美人水はもうやめる。在庫もないの」
最初はペットボトルを袋に入れる晴美を黙ってみていた瞳子でしたが、いつの間にか手伝って一緒にペットボトルを潰していました。
そして何となく、以前に職場で皇室に縁があると誤解され、それ以来失敗をしても陰口をたたかれなくなった話をしました。
「陰口はどうなろうと言われますよ。あの雅子様でも、陰口をたたく人はいますから」
「皇室・・・皇室ねぇ…」
晴美は何かを考え付いたらしく頻りに頷きだしましたが、瞳子は気づいていないようでした。
アツシの家に、亡くなった妻の姉 留美子が訪ねてきました。
タッパに入ったサラダなどの総菜をくれた後、妻の荷物がしまってある部屋に入ってゆきました。
「みて、チューリップ!里子昔からこの花が好きで・・・」
と笑い声がした後、何も聞こえなくなりました。
暫くしてアツシが中を見てみると、留美子はビニール袋に入った携帯電話を眺めて泣いていました。
それは妻が死んだときに握りしめていた携帯電話でした。
留美子はアツシに気が付くと
「私みたいな顔と性格をいいいって言ってくれて婚約してたけど、妹が殺されてフラれちゃった。ねぇ、私、妹を殺されてフラれたんだよ」
と泣きながら笑っていました。
ある晩、四ノ宮はパートナーと共に知り合いのバーにやって来ました。
その日は貸し切りで、四ノ宮を励ますパーティが開かれていたのです。彼等は全員がゲイで、普段は出来ないあけすけな会話を楽しんでいました。しかし、四ノ宮が
「昨日は、この脚なのに掃除してって言われた」
「病院から戻ったら、シャワーが壊れてた。僕が入院してるのに、シャワー浣なんてどういう神経?」
とパートナーの愚痴を言い続けていました。友人達はパートナーの表情が強張っている事に気が付いて止めようとしますが、四ノ宮は一向に気にしません。
我慢しきれなくなったパートナーは、思わず四ノ宮の頭を叩いてしまいます。それでも四ノ宮は
「見た?ひどいでしょう~」
と笑い、周りに人がいなくなった時に
「やめてよ~子供じゃないんだからさぁ~」
と松葉杖でパートナーの脚を小突いていました。
家に帰り、シャワーを浴びる前にギプスにラップを巻き付けてもらっている間も、四ノ宮は店でのことを蒸し返してパートナーに小言を言い続けていました。
とうとう我慢できなくなったパートナーは、突然
「もう無理、尊敬できない。別れたい」
と言い残して家を出て行ってしまいました。
その数日後、四ノ宮は独立して事務所を起こすため、不動産業者である聡の紹介してくれた物件を見に来ました。
いつもの通りに接していた四ノ宮でしたが、聡の方はどこかよそよそしい感じでした。
思い切って聞いてみると、聡は四ノ宮と目を合わせようとしないままで
「なんか、悦子から聞いたんだよ・・・うちの子が困ってる。お前に・・・イタズラされたかも知れないって」
「するわけない。そんなことは絶対にしないよ!」
いくら必死に言っても、聡は目を合わせようとはしませんでした。
あらすじ・ネタバレ3【叶わぬ願いの行き着く先】
ある日、瞳子は藤田と共にドライブに出かけました。
化粧もして、気分が弾んでいた瞳子でしたが、連れていかれたのは養鶏場でした。
鶏が床一面に歩き回っている鶏舎の中を進んでゆきながら
「あんた、夢はあるか?俺はある。これをやりたい。堅い仕事だ。これからはカシワ捌くんじゃなくて、カシワを育てるんだよ」
と、藤田は熱っぽく語っていました。せっかくのロングブーツに糞や試料のくず、泥が付いて瞳子は辟易していましたが、そんな事を言い出せる雰囲気でありませんでした。
そんな時、藤田は突然に瞳子を抱きしめました。胸がきゅんとなる瞳子でしたが
「あんた、いくら出せる?前金がいるんだ」
という一言で現実に戻されてしまいます。
その後、藤田が養鶏場の持ち主と話をしている間に、瞳子は裏の丘に登ってみました。
丘からは養鶏場全体が一望でき、瞳子は藤田とここでやってゆく将来を思い描いて笑顔になりました。
会社の休憩中、川べりに一人で座って釣りをしていたアツシの所に、女子事務員の川村が突然やって来て
「アメちゃん、いりますか?」
と話しかけてきました。そして、徐に
「篠原さんって、暗いですよね」
と言った後に
「会社に”暗い人がいるんだよね”とママに話したら”家に連れてきなさい。一緒にテレビを見るわ”って言っていました」
と家に招待しようとします。驚いたアツシは申し出こそ断ったものの
「ありがとうって、お母さんに言っておいて」
と少し表情が和らぎます。
数日後、アツシは前々から相談していた弁護士(実は四ノ宮)に会いに来ました。
判決は出てしまったものの、アツシは犯人の家族を相手取って損害賠償などの請求をしたいと考えていました。
しかし、四ノ宮はいい顔はしませんでした。「いけるかもしれない」と言った事は覚えておらず、言ったとしても気休め程度のつもりだったからです。
「そういうの、裁判長が嫌うんですよね・・・」
と煮え切らない態度の四ノ宮に業を煮やしたアツシは、掴みかからんばかりの勢いで
「お願いします。お金ならいくらでも工面します。まだ、全然働けますし・・・」
と何度も頭を下げて頼みました。しかし、四ノ宮はこれ以上続ける事は出来ないと思ったのか
「分かりました・・・・もう止めにしましょう。これ以上は傷つくだけです」
と言って、食い下がるアツシを置いて部屋から出てゆきました。
裁判で犯人に思い知らせることが唯一の生きる希望だったアツシは呆然自失となり、四ノ宮を紹介してくれた同郷の先輩に相談します。
しかし、その先輩は
「日本なんてもうダメだって。そこ行くと、ニュージーランドはいいぜー。俺、お前と一緒に移住したいと思ってるんだよ。バイクぶっ飛ばしたら、嫌なことなんか忘れるって」
“あぁ、この人は大きな声で誤魔化そうとしている・・・”
アツシの絶望はさらに深くなり、仕事に行く気力もなくなってしまいました。
そのうち、心配した黒田が様子を見に来てくれました。
「黒田さん、人を殺して良い法律って出来ないですかね?この世には絶対に殺していい奴っていると思うんですよ。俺が犯人殺して、世間や警察が許さなくても、神様は許してくれると思うん
ですよ」
鬱屈した思いをぶちまけるアツシの話を、黒田は黙って聞いてくれていました。
そして、聞き終わった後でポツリと
「・・・殺しちゃだめだよ。殺したらさ、こうして話も出来なくなるじゃん。俺はね、話したいよ、またこうして」
と黒田は呟きました。
自暴自棄になったアツシは、麻薬の売人にコンタクトを取ってしまいます。
公衆トイレで金と引き換えに渡された小袋を家に持って帰り、打ってみようとした時にメールが入ります。
「それカルキ。打ったら死ぬで」
アツシは遣る瀬無さや情けなさが頂点になり、衝動的に風呂場に駆け込んで手首を切ろうとします。
しかし、土壇場でどうしても力が入らず、風呂場に座り込んで泣き出しました。
暫くして、妻の位牌の前に座ってアツシは話し始めました
「今日、街中でカップルを見たよ。男の方が立ションしても、女の方は笑ってて。傍から見ればバカな奴らだけど、いいなって・・・うらやましいなって思ったよ・・・本当に俺は、敵も取
ってやれなくて・・・」
泣きながら、ずっと語り続けていました。
風呂掃除をしていた瞳子は、間違えてシャワーを浴びてしまい、急いで上着を脱いで上半身裸になってしました。
その姿を鏡で見ているうち、突然に思い立って化粧をし、派手な服をきて、荷物をまとめて家を後にしました。
まっすぐ藤田のアパートを訪ねましたが
「事前に約束してくれないと・・・」
と藤田は困ったような顔をしていました。
そして通された部屋のテーブルの上には、覚せい剤入りの注射器が転がっていました。
「大丈夫、すぐに済ませちゃうから」
藤田はそこにあったタオルで腕を縛ろうとしますが、上手くいきません。
そのうち、晴美がやって来て部屋にズカズカ入り込んできました。
彼女にとってはこの光景はいつものことのようで
「またやってんの?」
と言った後に瞳子の方を向き
「あんた、鶏小屋いった?あれ買うって話は嘘だからね」
と言って奥に行ってしまいました。
やがて藤田は瞳子のストッキングをはぎ取り、それを腕に巻いて覚せい剤を打ちました。
ぼんやりとハイになっている藤田の姿に呆然とした瞳子は、ポツリポツリと昔、仕事で失敗した時に上司が慰めてくれた話をして
「その上司が、今の旦那なんだけどね・・・」
と言いながら、涙を流していました。
遂に四ノ宮のギプスが取れる日がやって来ました。
何も知らない看護師は、聡が書いてくれたメッセージを半分に切り裂いてギプスを割りました。
それは、四ノ宮にとって聡との絆が消えてゆく事の象徴に思えました。
「繋がってますかね、本当に・・・」
四ノ宮は思わず看護師に問いかけていました。
その後、四ノ宮は聡に電話をしました。
「この前は、俺が翔太にイタズラしたみたいな感じになったからさ…」
「ああ、うん、あの事ね・・・」
何とか関係を修復しようと焦る四ノ宮でしたが、聡は明らかに面倒くさそうにしており
「今、チョットバタバタしてるんで、また今度」
と一方的に電話を切ってしまいました。
「翔太にイタズラなんかしないよ・・・俺、お前の事がずっと好きだったんだよ。でも、迷惑になるかと思って一度もそんなこと言わなかっただろう?ゲイだって告白した後も、普通に付き
合ってくれてすごく嬉しかった。でも、俺の事を何にもわかってなかったって事?ずっと一緒に過ごしてきた時間は意味がなかったって事?」
まるでまだ繋がっているかの様に、四ノ宮はこれまで言えなかった思いを吐露し続けていました。
あらすじ・ネタバレ4【それでも続いてゆく3人の日常】
数日後、瞳子は再び夫の元に戻り、以前と変らない生活を続けていました。
ある日、晴美が皇族の振りをして結婚披露宴を開き、招待客から約1700万円の祝儀をだまし取った疑いで逮捕されたとニュースが報道していました。
同じ頃、瞳子は夫から体を求められます。
「(コンドームが)無いから、買ってくるね」
「・・・いいよ、出来ても。夫婦なんだし」
瞳子は、驚きながらも少し嬉しそうな表情になりました。
四ノ宮の事務所に、結婚詐欺で夫を訴えようとしていた女子アナがやって来ました。
「離れてみて、はじめて夫が大切な人だって分かりました。訴えるのは止めにしようと思います」
その話を上の空で聞きながら、四ノ宮は机の上に置かれたペンを眺めていました。
「嬉しい!先生、泣いてくれるなんて・・・」
その時はじめて、四ノ宮は自分が涙を流していた事に気付きました。
「・・・おめでとうございます」
四ノ宮は深々と頭を下げました。
アツシは同僚達とのささやかな酒宴に参加していました。
会社の前に七輪などを置き、紙やプラスチックの使い捨てカップでビールを飲んでいるようなささやかなものでしたが、大口の受注が取れた祝いでした。
その最中、アツシは黒田に何故片腕が無くなったのか聞きました。
「俺、昔は左翼だったのね。皇居に撃ち込むロケット弾を作ろうとして失敗して、腕を失くしちゃったんだ」
黒田は物凄い話をサラッと答えてくれました。アツシが笑うと
「笑うのはいいよ。人間、お腹は一杯になって笑っていれば何とかなるよ」
その横で、大津は先日の美女とどうなったか聞かれていました。大津は正直に
「諦めました。決心したけど、心が折れる事もあります!」
と大声で言って、女子社員達から「バカだー!」と笑われていました。
昼間、いつもの通りボートで仕事に出たアツシは、点検を終えた後
「右よし、左よし」
と決められた指さし確認を行った後、真っ青な空を見上げて指さし
「・・・よし」
と呟きました。
長い間閉ざされていた里子の部屋のカーテンは、今は開けられて日差しが差し込んでいました。
そして、位牌の前には里子の好きだったチューリップが飾られていました。
映画『恋人たち』の感想
今を生きる全ての人に活力をくれる1作
3年前に妻を通り魔事件で失ったアツシは、犯人に思い知らせようと損害賠償請求を計画します。
物語のような恋を願う瞳子は、偶然出会った藤田との不倫でロマンスを実現させようとします。
ゲイの四ノ宮は、密かに想いを寄せる親友との変わらない友情を願います。
しかし、願いは脆くも打ち砕かれます。
彼らにも、仕方がないなと思わせる面はありました。
アツシは、妻を失った心の傷から周囲に対して壁を築き、時には攻撃的になりすぎた事もありました。
瞳子は、少女漫画のような恋を夢見る余り、年相応の自分の容姿や、夫がかつて言ってくれた優しい言葉を忘れていました。
四ノ宮は、周囲を見下す気持ちがどれだけ相手を傷つけるかに思いが至っていませんでした。
世間は、そんな彼らの願望を無残にも打ち崩しました。
しかし、そんな彼らを救ったのもまた周囲の人々でした。
アツシは先輩の黒田に救われます。
瞳子は、まだ自分を思ってくれていた夫の気持ちに気付きます。
四ノ宮は、自分の事を信頼してくれたクライアント(結婚詐欺の相談に来た女子アナ)に気持ちを救われます。
ラスト、アツシが見上げる青空と、里子の位牌を照らす日光が心をきれいに洗ってくれ、明日への希望を感じさせてくれます。
今を生きる全ての人に活力をくれる1作です。