今回は、20世紀アメリカ文学の中でもドがつくほど、ちょーおすすめしたいのがカーソンマッカラーズ。
カーソンマッカラーズがアメリカの女性作家で、独特の感性と文体とで、アメリカでは今もなお、コアなファンがいます。
この記事ではそんな魅力あるアメリカの小説家、カーソンマッカラーズを分かりやすく解説していきますね。
カーソンマッカラーズの経歴
カーソンマッカラーズは、1917年アメリカ南部ジョージア州のコロンバスに生まれました。(コロンバスはジョージア州西部にある織物工業都市。人口おおよそ80,000の小都市で、彼女の作品に出てくる舞台の原型でもあります)
ハイスクール時代のカーソンマッカラーズは、勉学ではほぼ首席で通し、文学にも優れた才能を示しました。
ユニオン・オニールをよく読み、カーソンマッカラーズ自身でも短編を書き、近くに暮らす新聞記者に見せて意見を求めたこともありました。
実は、カーソンマッカラーズは少女時代からピアノを習っており、作家を志す前は、コンサートピアニストを目指すほど、熱心なピアノ少女でもありました。
17歳のときにジュリアード音楽院に入学する心づもりで単身ニューヨークを訪れました。
ニューヨークに着いた翌日地下鉄の中で虎の子の授業料すっかりつられて働いて自活せざるを得ない羽目になったジュリアード音楽院に入学する心づもりで単身ニューヨークを訪れた
カーソンマッカラーズの魅力
ここでは、カーソンマッカラーズの魅力を3つのキーワードで紹介していくことにします。
文体
僕は小説を読んでいる時、心がときめいた文章を見つけるとページの端を折ったり、文章にマーカーをつけることがあります。
カーソンマッカラーズは他の作家とは異質で、でもはっと驚かされてついつい次々と目で文を追ってしまう文がたくさんあります。
例えば、以下の通り。
この晩から奇妙な時間が始まった。兵士(ウィリアムズ一等兵)は毎晩森を通って接近し、決まった場所へ戻ると、大尉の家の中で起こるいちぶしじゅうを見つめた、、、この時期に、ウィリアムズ一等兵に、ある変化が起こった。急に足を止めて、じっと中を見つめる癖がついてそれは容易にぬけなかった。厩舎を掃除したり騾馬に鞍をつけたりしているときにだしぬけに恍惚状態に引き込まれることがよくあった。身動きもせずに立っていて、名前を呼ばれても気がつかないことがときおりあった。
カーソンマッカラーズの文体の特徴は、キャラクター=登場人物の個人の内面の世界を書かせたら天下一品だということです。
人は他人に見せる面と、見せない(見えない)面とがあり、カーソンマッカラーズの場合、『人に隠す特性』を、それこそえぐり出すように書き上げるんです。
こういったことが可能なのは、繊細な感性があるからこそだと思います。
キャラクター
カーソンマッカラーズが描く登場人物たちは、
・孤独
・何かを求めているが手に入らない
・性格異常者
・人に言えない秘密を持っている
・身体的不自由
といった、一般的に『幸せ』と呼ばれる人々とはかけ離れたところで悩み苦しんでいるキャラクターばかりです。
なので、「心が和むわ〜」「小説を読めば元気になる!」といった小説ではありません。
でも人間が抱えている不完全さという部分を、カーソンマッカラーズの小説の登場人物たちの行動や考えを通して、しっかりと認識させてもらえます。
歪みと愛
『歪み』・『愛』といった言葉はカーソンマッカラーズの魅力を表すのにぴったりだと思います。
基本的にカーソンマッカラーズの物語に出てくる登場人物たちはほとんどが社会に順応できない孤独な人間です。
その理由は、彼らの抱える払拭できない歪みと、ハッピーエンドでは終わらない愛をひたすら求め続けているからです。
そして
『歪み』を徹底的に書けば→グロテスク
『叶わない愛』を客観的に書けば→喜劇
にもなります。グロテスク、喜劇という言葉もカーソンマッカラーズのキーワードです。
とにかくカーソンマッカラーズの文章は、読めば読むほど、僕たち自身のなかに潜んでいる“壊れた部分”あるいは“正常ではない部分”がものすごくリアルにくっきりと浮かび上がってきます。
それらを真正面から見つめて、「あ〜確かに人間ってこういうとこあるな〜」と感じれば、あなたもきっとカーソンマッカラーズの魅力にハマる一歩手前のところにいますよ。
あの村上春樹が訳してる!?
村上春樹さんと言えば、ハルキストと呼ばれる集団がいるほど、日本では有名な小説家ですが、数々の海外作家さんの作品を訳して日本に紹介している翻訳家でもあります。
僕がカーソンマッカラーズを知ったのも村上春樹さんが訳した「結婚式のメンバー」からです。
昔の海外文学って訳した言葉とかがすごく古くさくて読みにくい時がありますが、村上春樹さんの訳は、平成・令和に生きている僕たちにも、めちゃくちゃ読みやすい文章になっているので、もしはじめてカーソンマッカラーズを読むなら村上春樹さんが訳したものがおすすめです。
カーソンマッカラーズのおすすめの小説
続いてカーソンマッカラーズのオススメの小説をご紹介しましょう。
結婚式のメンバー
心は孤独な狩人
カーソンマッカラーズは病気がちということもあり、佳作です。
とはいえ、どれもほんと〜に魅力がある小説ばかりです。
【初心者におすすめ】結婚式のメンバー
結婚式メンバーはカーソンマッカラーズをまだ読んだことがない初心者の方におすすめです。
なぜなら、ページ数もそこまで多くないですし、村上春樹の訳がものすごく読みやすいからです。
物語は、世界から切り離されていると感じる12歳の娘フランキーアダムスを中心に進んでいきます。
12歳の女の子といえば、多感な時期。でもフランキーは人よりも背が高いというコンプレックスを抱え、母親は彼女が生まれたときに亡くなっています。
父親に対しては自分とは違った性格や価値観を持っているため心の距離を感じ、自分を愛してくれる兄は婚約して、南部の田舎町を旅立ちます。
そんなフランキーがほとんどの時間を一緒に過ごしているのが、中心人物の2人。
アフリカ系アメリカ人のメイド、ベレニス・サディ・ブラウン。そして彼女の6歳のいとこ、ジョン・ヘンリー・ウェストです。
うだうだと暑い夏をその2人とポーカーをしたり、くだらないおしゃべりをしたりして暮らしていますが、片田舎でなんの代わり映えもしない世界にあきあきとしているフランキー。
でもフランキーには夢があります。
それはアラスカの荒野で新婚旅行をする兄と彼の花嫁と故郷を出て、一緒に暮らすことです。
結婚式メンバーは、思春期の甘い瞬間的なファンタジーを追うストーリーが非常に面白いですが、それ以上に、カーソンマッカラーズの、時に活き活きとした文体で描かれる小説世界は、他の小説家にはない感性を感じるグッと心引き込まれること間違いなしです。
【マッカラーズの良さですぎ】心は孤独な狩人
カーソンマッカラーズのデビュー作で、500ページ近くある長編です。なんとこれを書き上げたのが23才というから驚きです。
心は孤独な狩人はジョージア州の小さな街を舞台に、孤独な聴覚障害者の主人公シンガーとその相棒であるアントナポロスを中心に展開されます。
アントナポロスはシンガーにとって、”世界で唯一、心を許せる友人”でした。
しかしある日、アントナポロスは精神を病んで町から離れた精神病院にうつされます。
広大で、寂しい世界にたった一人取り残された啞の主人公シンガーは、身が苛まれるほどの孤独を感じます。
そのシンガーの周りに、それぞれ人々に理解されない個人世界をもち、想像のなかに浸りきる3人の人物が近づいてきます。
ミックケリー→音楽を心から愛し、ピアノを買うことを夢見る男勝りの活発な女の子
コープランド博士→黒人の理想主義者
ジェイク・ブラント→社会に対して反抗を抱くアルコール中毒の労働者
彼ら3人は、親切で共感的な性質をもつシンガーに引き寄せられ、世界に聞き入れられない自分の想いを滔々とまくし立て、シンガーこそ、唯一の理解者であると勘違いします。
実はシンガーは反論や意見をいえないだけで、『彼らの言っている言葉の意味や気持ちが理解できない』のです。
このように心は孤独な狩人に出てくる人物は、それぞれが見ている方向が違い、しかし誰かに理解されたい、誰かと気持ちを共有したいという痛切な思いを抱えながら、終始孤独な内的世界に埋もれています。
デビュー作でありながら、賞賛を集め南部出身の新人作家として注目されます。