2020年本屋大賞作「流浪の月」のあらすじ・感想をまるっと紹介【愛とは何か?を考えさせられる小説】

本屋大賞作ということで、すぐに書店に駆け込んで買ったのが、流浪の月。

女児誘拐事件が一つのきっかけとなり、少女と青年二人の一生涯を狂わせていく。

世界観は独特でして、サスペンス風味がありつつ、『愛』について深く考察できる作品です。

一言、めちゃくちゃ面白かったし、考えさせられました。

善意とは一体何なのか?

善意に潜むエゴイズム

世間が語る真実の乖離

閉じられた愛の幸福

こんなことを考えられます。

今回は、「流浪の月」を読了した僕が、あらすじや結末、感想を記事にしています。

目次

流浪の月はこんな人は読むべき小説

まず最初に流浪の月はどんな人が読んだ方がいいのかをご紹介しましょう。

・社会における「普通」って一体何なのかを描いた作品を読みたい人

・面白いストーリー展開、筆力

・変わった愛の形を知りたい人

・本当の愛ってなんなのか?とついつい考えてしまう人

・心に刺さる素敵な言葉が散りばめられた作品を読みたい人

・一気呵成に読めるような面白い小説に出会いたい人

・何か一つでも向き合うような社会的問題を求めている人

・辛い過去や思いを抱えながら懸命に生きる主人公を描いた作品を読みたい人

流浪の月のメイン登場人物

家内更紗…本作の主人公。幼い頃は父親・母親と幸せな暮らしを続けていた。ところが父が病死すると、それまでの関係は終わりを迎え、母は好きな男と家を出ていく。その後、叔母の家に引き取られるが、居心地の悪い思いをして過ごす。当時は、従兄弟に性的な虐待を受けていた。その後、佐伯文に誘拐されて、

佐伯文…女児誘拐事件で社会的にはロリコン異常者としての扱いを受ける。だが実際は心優しい青年であり、更紗の居場所として長い間存在し続けた場所でもある。社会的な制裁に長いこと苦しみ、精神的に病んでしまう

流浪の月あらすじ

「小学生が男に誘拐された」

世間では女児誘拐事件として、ニュースでは連日誘拐した「ロリコン男」を卑劣なと大々的に取り上げられた。

もちろん、誘拐された女児・誘拐したロリコン男の近辺は洗い出され、写真や関係者の洗い出しが行われる。

ロリコン男→悪

誘拐された女児→可哀想

これが社会的に報じられた事実であった。

ところが世間で騒がれている反面、真実とはこうだったのです。

主人公家内更紗は辛い幼少期を過ごしました。

うまれながら世間の枠には縛られない自由な育ち方をしていた更紗は、大好きだった父が病死してから一転、それまで幸福だった家族の生活に大きな変化が訪れます。

もともと破天荒な母は、他の男を作り、家内更紗を残して蒸発。

しぶしぶ引き取られた叔母夫婦の家庭では、家での居場所が見つからず、挙げ句の果てにはいとこに性的嫌がらせまで受けることに。

更紗はいつも叔母夫婦の家を飛び出したい。逃げ出したいと思いながら毎日を過ごしていました。

そんな時であったのが、文です。

彼は公園で過ごしていた時に、更紗と出会い、なぜかは知りませんが、帰りたくないと感じている更紗の気持ちを察して「うちにくる」と誘ったのです。

流浪の月の個人的感想

 

愛の多義性

流浪の月を読めば間違いなく「愛」について考えさせられます。

本作では『文・加害者=更紗・被害者』との間に奇妙な愛情が芽生えます。

彼らは年も違えば、出会いも世間的にみれば「事件」とされる誘拐から起こっています。

もちろん、そこには本書で何度も取り上げられるようなストックホルム症候群といった精神的・心理的な何かが働いていた。と憶測する人もいるでしょう。

しかし更紗は明確にそれを否定しているわけです。

文の名前を呼び、文に必死に手を伸ばしている幼いわたしの動画に、プロの臨床心理医師だと自称する人のコメントが書き込んであった、、、犯罪被害者は時として加害者に対して愛情を持つ、恐怖の対象を愛の対象にすり替えることで自身を守ろうとする、それは防衛反応の一種であり、被害女児の心の傷は相当に深い、、、

何も知らないくせに、わたしはひどく腹を立て、一方で不安に駆られた。

わたしを知らない人が、わたしの心を勝手に分析し、当て推量する。

ではどうして二人の間に愛が生まれたのでしょうか。

それは

・彼らの間にはどちらも不足や孤独というものが存在しており、互いに不足を埋めようと求めあったゆえに生まれた愛

・そばにいると自分が自然だと思える。背伸びせずとも

・安心できる。自分の居場所だと、肯定してくれるような存在

・互いに良き理解者だとしたから

もちろん年齢も違うので「あなたのことが好きよ」みたいな恋愛感情もなければ、「性愛」という関係でもありません。

つまり『空虚を埋める存在』『世間で理解してくれるのは彼・彼女だけ』となったからです。

私たちが普段『愛』と読んでるものは、あくまで正常なものばかりです。

例えば、私たちは誰々が好きだと言いますが、それは同級生同士だとか、職場の誰々だとか、結婚している男だとかです。

他人からみてもごくごく一般ですよね。

出会った理由も正常であり、年齢差も「まあまあ分かるよ」と言われるもの。

異常なところは一切ない。

でも流浪の月で交される愛は、ちょっと歪であると言わざるおえないです。

ではなぜ歪と言われるのか。

それは個人間の愛にも、社会的なモラルや価値観が入り込んでくるからです。

愛といっても、それは「普通なものなら認めるけど異常なものは認めないよ」という見えない条件みたいなものが存在しているわけです。

でも本来は“愛”ってそういった価値観を超えたところにあるものなんで、文と更紗との間にある

「好きな人のそばにいたい。好きな人を守ってあげたい」

という純粋な心があれば成立するものなんですよね。

そこに社会が紛れてくると面倒なことになる。あるいは個人間の利害も。

 

この愛について、亮という存在があらわれることでより深みを増します。

亮はDVをするけれど、社会的には認められた存在であり、周りからすれば文なんかよりもずっと『愛するにふさわしい男』ですよね。

でも更紗の気持ちは違う。

あのときの人工的な葡萄の香りが蘇る。まがい物。愛とよく似ているけど、愛ではない。亮くんは自分の空洞をみたしてくれる誰かを欲しているだけだ

とはいえ、上の愛はあまりにも閉塞的な愛の形であり、これを成立させたいのであれば社会やモラルから逃げなければならない。

多くの文学作品・映画で取り上げられているテーマでもあります。

事実と真実の違い

事実と真実が一緒だと感じている人がいるかもしれませんが、はっきり違います。

流浪の月では明確にふたつは違うものとして扱われています。

事実→女児誘拐事件。佐伯文は頭のおかしいロリコン犯罪者で家内更紗を心理的に抑圧して洗脳していたのだ

真実→家内更紗は自分から佐伯文についていった。文はずっと優しく接してくれたしいつでも逃げられた

そして社会・世間は当事者が語る真実などには目も向けず、自分たちが信じやすい・受け入れやすい事実の方を優先して聞き入れようとします。

この『自分たちが信じやすい・受け入れやすい事実』というところに本質があります。

更紗はどれだけ「文は異常者なんかじゃない、子供にも優しくて接してくれた」と真実は主張しても、周りは聞き入れません。

なぜなら、「世間の価値観や倫理観にそぐわないことは受け入れらない」のが社会だからです。

つまり、時に社会はとても冷酷な存在となり、真実などはどうでもよく、事実だけで物事が語られることがあるわけです。

しかし、家内更紗は『事実なんて存在しない』とはっきりいっています。

でも多分事実なんてない。出来事にはそれぞれの解釈があるだけだ。泉ちゃんには泉ちゃんの。亮くんには亮くんの。わたしも同じだ。わたしが知っている文と、世間が知っている文は全然ちがう。その間でもがく。

過ぎた善意とは一種の暴力になりうる

この本を読んで一番考えさせられるのは、『善意の明暗』ということです。あるいは『同情の明暗』でもあります。・

確かに世の中には不幸を背負っている人がいます。

そして彼らに同情し、善意を施すというのは、昔の学校の道徳の授業で習った話です。

しかしながら、善意や同情は、時に、人を苦しめるものです。

それを強烈に痛感できるのが本書です。

同情や善意とは、結局のところ、与えるもの・の評価基準で物事を決めるわけなので、そこには少なからずエゴイズムというものが混じりこみます。

「私たちがこう思う、だからあなたってかわいそうなのね」

と当事者を省いたところで、勝手な憶測が立てられて、善意の刃で人を傷つけるわけです。

でもこういう意見もあるでしょう。

現実では真実がまっすぐ伝わることの方が少ないけれど、だからこそ私たちは理解してもらえるように言葉を尽くし努力している。理解しあえる者だけの関係が尊いように書かれていますが、それは不可侵なだけで浅く感じます。わかってくれない周りの人たち、わかったふりをして優しさをふりかざすまわりの人た

そもそも人とは、孤独なものですからわかり合う方が難しい。

言葉をどれだけつくしもて誤解が誤解をうんで、いつのまにか手がつけられないほど、意図とは全く違った解釈がなされることがある。

それは仕方のないことかもしれませんが、善意をもつことってすごく難しいんですよね。

この本を読むことで、自分の尺度で考える常識や普通を、誰かに押し付けていないか、あるいは色眼鏡で物事を見ていないか、と自分自身のあり方を見つめ直すきっかけになりました。

流浪の月の読了レビュー【7選】

以下にてツイッターの読了したレビューをいくつかご紹介しておきますね。

僕と同じく流浪の月読者さんがたくさんいたのはテンションが上がりました。

これから流浪の月を読もうとしている人はぜひ参考にしてくださいね。

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この記事を書いた人

読書好きブロガー。とくに夏目漱石が大好き!休日に関連本を読んだりしてふかよみを続けてます。
当ブログでは“ワタクシ的生を充実させる”という目的達成のために、書くを生活の中心に据え(=書くのライフスタイル化)、アウトプットを通じた学びと知識の定着化を目指しています。テーマは読書や映画、小説の書き方、サウナ、アロマです。

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